抄録
眼窩蜂窩織炎(orbital cellulitis)は、眼窩の軟部(脂肪蜂巣)組織における急性化膿性炎症で、ときに膿瘍を形成し、また、眼窩内は静脈系の血流が豊富なため、炎症は急速に拡大しやすい。原因として、眼窩に接する慢性および急性の副鼻腔の炎症(副鼻腔炎など)によることが多い。一方、重症心身障害児(者)(以下、重症児)は、基礎疾患の障害などにより、易感染性であることから、感染が遷延化、重篤化しやすいといわれている。今回、眼窩蜂巣織炎に眼内炎を合併した重症児の一例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。
症例呈示および現病歴
症例は、60歳、男性で、脳髄膜瘤術後、最重度精神発達遅滞、難治性てんかん、強度行動障害、甲状腺機能亢進症で当院長期入院中であった。平成23年5月3日から、右眼瞼の発赤・腫脹を認め、眼脂もひどく、体温38℃の発熱も伴い、眼瞼の発赤・腫脹は急速に増強した。5月5日の血液検査でWBC 16400, CRP 28.9 mg/dlと炎症所見も強く、眼窩蜂巣織炎の疑いにて、5月6日に総合病院眼科受診し、眼窩蜂巣織炎に加えて、眼内炎を合併していた。眼脂培養では、G-streptococcus 1+, MRSA 3コロニーであった。頭部CTスキャン検査では、近傍の副鼻腔には炎症所見は認められなかった。抗生剤の点滴静注および点眼剤にて加療したが、基礎疾患などから治療に難渋し、一時、眼内容除去も考慮したが、上記治療の継続にて、徐々に炎症所見、眼症状も改善した。
考察
眼窩蜂巣織炎は、眼窩内軟部組織のびまん性急性化膿性炎症であるが、治療が緊急を要し、非常に重篤な疾患である。今回、強度行動障害を有する重症児に眼窩蜂巣織炎に眼内炎を合併した一例を経験した。抗菌剤の大量投与等にて、観血的手術は施行せずに加療できた。重症児の場合、呼吸嚥下機能障害などから、呼吸器感染症を合併することが多いが、今回のよう眼窩疾患にも十分注意する必要があると思われた。