抄録
はじめに
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、予後不良の疾患であり、20歳前後で死亡するといわれてきた。近年、医学の進歩によって10余年の延命が可能となっているが、生存期間の延長からQOLに対する支援が重要な課題となっている。今回、短期入所を希望するDMD同胞例にスイッチ導入を行ったことで、主体的に要求が出せるようになった。ここから介助される側の障害者において主体性を持たせることの重要性について考察したい。
対象
兄弟ともに在宅で生活。身体機能は機能障害度の厚生省分類ステージⅧの臥床状態でNPPVを常時使用。ともに学齢期よりPT訓練開始、スイッチ導入は経験していない。
兄:27歳、身体面は手指・足関節で運動が可能。対人面は控えめだが社交的で人との会話を好む。
弟:25歳、身体面は手指のわずかな運動のみ可能。対人面では聞かれたことのみ応えるような傾向。
方法
ナースコール使用困難で改良が必要となり、身体機能に適合したスイッチと自己効力感を引き出すために操作できるものを検討した。
結果
スイッチ導入によりナースコール使用が可能となり、要求・職員とのコミュニケーション機会の増加、スイッチ改良の要望があった。また家族から、操作が困難なゲーム機のコントローラーについて、スイッチ導入の相談があった。これらの経過の中で兄弟ともに「他にスイッチでできることがないか」と前向きな発言がみられた。ここからテレビリモコン改良を行い病棟・在宅でのリモコン操作が可能になり、他の活動でもやりたいことの要求が出てきた。
考察
今回、スイッチの作製・改良で、簡単な工夫ではあるが、主体的な活動の動機付けになったことを経験した。進行性の病態の中で喪失経験も多く、それを実感している中で、生活場面の少しの工夫で主体性の拡がりがみられ、本人たちの生命への欲求が感じられた。また生活場面でできる活動があるといった自己効力感を引き出すことで、生活に対する主体的な要求へとつながったと考える。