抄録
はじめに
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の流涎・分泌物過多は、清潔面だけでなく、上気道性の呼吸障害の原因にもなり、重症児(者)医療では大きな問題である。ロートエキスは胃酸過多、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、けいれん性便秘に効能があるが、アセチルコリンを抑制して副交感神経の刺激を弱め、胃酸分泌を抑えるので、外分泌を抑えて唾液を減らすことが期待できる。そこで、重症児(者)の流涎・分泌物過多とそれによる呼吸障害の治療に試みた。
対象と方法
緑内障、排尿障害、麻痺性イレウスの既往、重い心臓病がない外来の重症児(者)20例(開始時2歳7カ月〜31歳、大島分類1が16例、5が2例、10が2例、体重6.5〜45kg)に対し、ロートエキスは成人の上限量90mgを年齢・体重で換算したものを上限量とし、その1/3〜1/2から開始して漸増した。分3で投与し、介護者の評価から効果と副作用を判断した。
結果
1.投与理由は流涎・分泌物過多による呼吸障害、むせ込み、頻回吸引9例、不潔や日常生活の支障11例であった。
2.開始量は15〜50mg、最終量は25〜90mgであった。
3.介護者の評価は、流涎・分泌物・吸引が減り、有効17例、変わらない・無効3例であった。
4.副作用は3例に認められ、痰が固くなって吸引しにくくなった、便秘、ミルクののみが少し悪くなった、各1例であった。
5. 14例は5カ月〜2年3カ月継続しており、6例は1カ月〜6カ月で中止した。中止理由は無効3例、副作用2例、てんかんのコントロールにより唾液の嚥下が改善し不要になった1例であった。
結論
ロートエキスはこの範囲の量では重大な副作用もなく、流涎による日常生活の支障や分泌物過多による呼吸障害に有用であった。流涎・分泌物過多に対する適応はないが、重症児(者)は、胃炎、逆流性食道炎、胃・十二指腸潰瘍、けいれん性便秘が少なくなく、これらにも効果が期待でき、全くの適用外使用ではないので、試みてよいと思われる。