抄録
緒言
肺炎を含む肺炎球菌感染症を発症した重症心身障害の2児例を経験した。重症心身障害児における肺炎球菌ワクチン接種の重要性について考察した。
症例1
新生児仮死で出生した14歳重症心身障害児。誤嚥性肺炎などで過去50回ほど入院歴があった。2010年1月に発熱後低体温となり入院、血液培養より肺炎球菌が検出され敗血症と診断した。検出株の血清型はスライド凝集法で15と判明した。3月にも肺炎で入院、吸引痰から肺炎球菌を検出、血清型は15であった。退院後、血清型15Bを含む23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン(PPSV)を接種した。しかし、いずれの検出株も膨潤法で血清型は15Aと特定された。
症例2
生後5カ月頃より発達遅滞、筋緊張亢進を認め、原因不明の脳性麻痺と診断された5歳重症心身障害女児。誤嚥性肺炎などで過去13回の入院歴があった。症例1の経験を踏まえ、肺炎球菌感染症抑止を目的に2012年1月と2月に7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)を接種した。同年5月に肺炎で入院となり、吸引痰グラム染色でグラム陽性球菌の貪食像を確認、誤嚥性肺炎と診断しペントシリン+クリンダマイシンの投与を開始し著効した。培養で口腔内常在菌が検出され、5日間抗菌薬を投与し退院とした。ところが、その日の夜に発熱、咳嗽の増悪を認め再入院となった。吸引痰グラム染色でグラム陽性双球菌の貪食像を確認、アンピシリン・スルバクタム投与開始し著効した。培養で肺炎球菌が検出され、血清型はスライド凝集法で6と判明した。
考察
重症心身障害児の死因として肺炎の割合は最も多く、原因菌として肺炎球菌の頻度は少なくない。PCV7接種が我が国より10年先行した米国では、健常小児とは別に「基礎疾患のある小児」には2回のPCV7接種と1回のPPSVを合わせた接種指針が公表されていた。国内においてもできるだけ多くの血清型の肺炎球菌感染症から重症心身障害児を守るため、PCV7+PPSVによる肺炎球菌ワクチン接種指針が作成されることが望まれる。