日本重症心身障害学会誌
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特別講演2
赤ちゃん学から見た重症心身障害
小西 行郎
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2014 年 39 巻 2 号 p. 196

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抄録
2001年に設立された日本赤ちゃん学会は文理融合の新学術領域研究をめざして作られた学会であり、臨床医学、発達心理学のみならず物理学や複雑系あるいは情報工学などの研究者と保育・教育医療の現場を結び付けようとして造られたという側面を持つ。共通の課題はヒトの原点としての赤ちゃんを研究し、ヒトの心の発生・発達に迫ろうということにある。現在文部科学省科学研究費新学術研究「構成論的発達科学」において行われている研究はまさに赤ちゃん学会に集う研究者を中心に組織された研究であり、胎児期からの発達原理の解明を目指すものである。「母体の栄養障害などの環境要因によって胎動などの異常が生じ、その異常が出生後の環境要因によって発達障害などを発生させる」という立場から、胎児期からの発達を一貫して系統だった研究によって観察し、それによって得られたデータを構成論研究に提供しシミュレーションすることによって障害の発生メカニズムに迫ろうとするものである。現在までの観察研究や文献的考察をもとに胎動のシミュレーションすることによって、胎動が阻害されると自己の身体に触れることができなくなり感覚野における自己の身体マップ形成に異常を来すことが証明されるようになった。つまり自己の身体認知はまず胎動と触覚との相互作用によってなされるということである。発達障害者の自己の身体認知の障害はよく知られており、この障害の発生は胎児期の体動の障害と関係するかもしれない。発達障害者に見られる障害に運動の無意識化が困難ということがある。随意運動だけでなく、嚥下や呼吸あるいは眼球運動の意識下と無意識化のスイッチングがスムーズにできないという彼らの障害はその多くが脳幹において行われる体性神経と自律神経のスイッチングの障害である可能性が高い。と同時に意識の発生は胎児期にあり、それには自律神経を含む脳幹部の関与が強く示唆される。自律神経系の異常は発達障害において高頻度に見られ、心拍の揺らぎの異常や心拍数の増加などはすでに多く発表されている。それだけでなく心拍の揺らぎの認知・情動の異常も報告されているが、胎児期には子宮内発育遅延(IUGR)児は心拍の揺らぎの異常が多く、胎動も表情も少ないことが分かっている。IUGR児は後に発達障害が高頻度に発生するといわれ、胎児期の障害と発達障害との関係を強く示唆するものであるといえる。いずれにせよ胎児期の脳幹の障害が発達障害の発生に強く関わっていることは否定できないであろう。呉らは重症障害児の動作模倣や常同行動が状況を変化させることで随意運動に変化させられることを明らかにしているが、こうしたことも意識というものが大脳皮質の機能だけでは説明できないことを物語っている。 略歴 1974年:京都大学医学部卒業 1980年:福井医科大学小児科講師 1998年:埼玉医科大学小児科教授 2001年:東京女子医科大学乳児行動発達学教授 日本赤ちゃん学会設立 2010年:現職 2014年:兵庫県立リハビリテーション中央病院子どもの睡眠と発達医療センター長 
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© 2014 日本重症心身障害学会
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