日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム1:障害者総合支援法からみた重症心身障害、その課題と方向性
セーフティーネットとしての重症児医療
−国立病院機構の課題と方向性−
宮野前 健
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2014 年 39 巻 2 号 p. 202

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抄録
はじめに 国の施策として結核のみを診ていた旧療養所は、社会環境の改善や結核医療の進歩により患者数の大きな減少を成し遂げ、昭和40年代以降その“後医療”として、重症心身障害医療や筋ジス、神経難病や小児慢性疾患に取り組み今日に至っている。この間福祉施策の拡大・充実に伴い公立・法人立重症児施設はそれぞれの理念を掲げ各地に設立され、通園事業や短期入所事業など在宅支援も充実させてきた。一方旧療養所では国の組織としての制約なども有りそれらの取り組みが遅れ、質的な格差が施設によっては生じた。 独立行政法人国立病院機構への組織改革 旧国立療養所は平成16(2004)年に国立病院と統合して、“政策医療”を旗印に独立行政法人国立病院機構として全国144施設で再スタートをきり、機構本部主導の経営・運営方針が現場医療の改善や意識改革に変化をもたらした。現在重症心身障害児(者)病棟を持つ施設が73カ所(約7,400床)となり、施設同士の横のつながりを重視した医療分野ごとのネットワークを構成している。障害者総合支援法施行で福祉の視点での対応も求められ、病院機構が掲げるセーフティーネット分野である重症心身障害医療の在り方・体制作りが大きな課題になった。 現場の課題と取り組み 1.利用者の高齢化に伴う合併症の増加と重症化、更にポストNICU児の受け入れなど対応する医療ニーズも変化し、それを担う医師の確保は多くの施設で次第に困難になっている。利用者の高齢化と相まってこれまで主に小児科医が担ってきた現場を、神経内科や整形外科などその専門性を活かして担当する施設も増加している。 2.複雑な病態生理を示す重症心身障害児(者)は一般・臓器別専門医療の延長線上のみの対応が困難なケースも多い。社会・福祉的側面を含め診療に当たる必要があり、障害者医療への理解が一般・急性期医療現場で不可欠である。そのため医学部学生教育や初期・後期研修の中で、国立病院機構の重症心身障害病棟での研修も少しずつではあるが、実施の方向に向かっており、将来を担う人材育成にも繫がると期待している。また看護の分野においても専門性は高く、多くの施設で看護実習を受けいれており、国立病院機構では日本看護協会の「重症心身障害分野」の認定看護士制度構築の取り組みも始まっている。 3.セーフティーネット機能として、通所事業や短期入所受け入れなど在宅重症児(者)への支援、ポストNICU児の在宅移行への橋渡し機能や療育施設としての対応も徐々に進めている。また施設が持つ障害者医療のノウハウを地域に還元していくため、医療的ケアや障害者看護などの情報発信や研修受け入れなどにも取り組みはじめている。地域行政や福祉施設との連携、日中活動や社会参加支援では、国立病院機構では“療育指導室”がその中核を担っており、専門性の向上とマンパワーの充実などの課題が残っている。 4.利用者の日中活動や社会参加などを支援する生活支援員・介護職の導入など、施設運営上の影響を考慮してそれを支えるマンパワーの充実と専門性の向上を国立病院機構全体で徐々に進めている。 これから 国立病院機構では施設間のネットワークを活用して臨床共同研究にも力を入れ、少しずつその成果をあげてきている。福祉的視点も含めた重症心身障害医療の研修の場の提供、利用者の日中活動・社会参加の推進や在宅重症児(者)への支援拡大と情報発信などを通じて、国民から支持される国立病院機構が掲げるセーフティーネット医療の充実が可能となると考える。 略歴 1977年 京都大学医学部卒業 小児科学教室に入局 1980年 京都大学医学部大学院 1983年 京都大学小児科学教室助手 この間3年間グスタフルーシー研究所(フランス)に留学 1989年 兵庫県立尼崎病院 小児科医長 1990年 旧国立療養所南京都病院 小児科医長 1998年 同 副院長 (2004年独立行政法人国立病院機構南京都病院に組織改変) 2012年 同 院長
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