抄録
重症心身障害児者は人口に占める割合は大きくありませんが(1万人あたり3人)、医療、福祉の上ではずっと大きな問題であり続けています。それは、児者一人ひとりが必要とするものが質・量ともに大きいことに起因しています。科学の成果に基づいて障害児医療、障害児看護、障害児リハビリテーション、障害児ケア、そして特別支援教育は大きく進歩しました。その多くは手探りを通した経験の結果であり、手探りは今も続いています。
一人の重症児が人間として成長し、周りの人とともに暮らしていくことを支援することは、支援者にとって喜びでありますが、同時にしばしば困難を感じるものでもあります。支援には高度の知識と技量が欠かせません。プロフェッショナルであることで、重症児(者)のみならず支援者自身も、安定して関わりが持てると思います。
このたびのシンポジウム「重症心身障害児(者)を支える職種の専門性向上」では、臨床教育、特別支援教育、リハビリテーション、そして重症児看護の専門性向上の立場から、4名のシンポジストにご登壇いただくことになりました。皆さんプロフェッショナルの育成に当たっておられます。
三浦清邦先生は大学で臨床と学部教育に取り組んでおられます。在宅重症児の医療面からの支援のためには、医療機関の間の連携が欠かせません。そのためには、関係者が重症心身障害に関する知識を持っていることが重要です。大学の医学教育で、早くから障害児者や老人などの現場に学生を触れさせる実習が行われていますが、先生はさらに、学生が直接、在宅重症児とその家族にふれあう機会を作られ、その効果を検証されています。在宅の重症児が全国的に増加する現状をふまえて、学生が重症児の実像を知る機会を持つことの意義についてお話しいただきます。
郷間英世先生は小児科医で特別支援教育に携わってこられました。全員就学の現在、支援学校では医療的ケアの必要性に直面しています。その取り組みの現状をお話しいただきます。また、コミュニケーションに困難を持つ子どもの教師が、子どもと向かい合ってコミュニケーション手段を模索しながら、その精神活動を理解し、好みを引き出す活動についてお話しいただきます。QOLも重要な問題です。子どもの身体表現や微笑などを通した感情や表現の理解、子どもの存在感などについてお話しいただきます。
重症心身障害児者には一生リハビリテーションが必要であり、すべてのリハビリテーション専門職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚療法士・臨床心理士)の関わりが必要であることは言うまでもありませんが、一人ひとり異なり個別性の高い重症心身障害児者に対して、自信をもって対応できる専門職はまだ不足し、その育成は最重要課題です。心身障害児総合医療療育センターリハビリテーション室の金子断行先生に、リハビリテーション専門職の専門性向上について、5年前に開始された重症心身障害理学療法研究会の取り組みを中心にお話いただきます。
最後に、入所施設などの医療機関はもちろん、教育・福祉分野における看護師不足も解決すべき課題です。重症心身障害看護に魅力を感じ入職した看護師が、自信をもって仕事を継続できるように重症心身障害看護の専門性を高めること、若手の看護師にこの分野に魅力を感じてもらう取り組みが必要と思われます。日本重症心身障害福祉協会認定 重症心身障害看護師制度の設立に関わり、重症心身障害看護の専門性の高い看護師を多数育成してこられた、東京小児療育病院の西藤武美先生に、この制度の成果と課題についてお話いただくとともに、看護学生への重症心身障害についての教育についてもお話いただきます。
座長略歴
三浦 清邦 1984年3月 名古屋大学医学部卒業 1987年4月 名古屋大学医学部小児科大学院入学 1991年4月 愛知県心身障害者コロニー中央病院小児神経科 2007年4月から豊田市こども発達センター小児神経科 2011年4月から 豊田市こども発達センター副センター長 2011年11月 名古屋大学大学院医学系研究科 障害児(者)医療学寄附講座 教授
松葉佐 正 1984年3月 熊本大学医学部卒業、同大学小児科入局 1991年3月 熊本大学医学部大学院医学研究科博士課程(小児科学)卒業 1991年4月 社会福祉法人志友会くまもと芦北療育医療センター(副センター長) 2010年4月 熊本大学医学部附属病院 重症心身障がい学寄附講座 特任教授