抄録
われわれは2009年に北海道から九州までの14名の理学療法士、3名の相談役の医師とともに重症心身障害理学療法研究会を発足した。2014年6月現在で会員数は251名、相談役の医師は4名となった。本研究会は、(1)生涯を通じて、理学療法の対象とすること (2)多様な障害から生じる生活障害が如何に良好となるべく、理学療法サービスの英知を集めて最大限援助していくこと (3)現存の理学療法アプローチでは、対応しきれない重症児者に対して、理学療法サービスの体系化を目的とすること (4)多様な障害像に対して、一人ひとり異なったアプローチが必要とされ、体系化とともに個々の重症児者に対応できるような、症例検討を積み重ね、それを会員全員で共有すること (5)一部の偏った考え方にならないようコモン・センスのもとに活動すること、を発足の理念として、これまで5回の全国的なセミナーを下記の如く開催し毎回200名超の出席者を得てきた。◇第1回セミナー:テーマ「重症心身障害の理学療法の未来と展望」2009年11月22日−23日(横浜市)。◇第2回セミナー:テーマ「症候性側彎にどう立ち向かうか」2011年1月9日−10日(横浜市)。◇第3回セミナー:テーマ「LIFE生活機能評価の必要性と今後の課題及び重症者にとって動くということ」2011年12月10日−11日(福井市)◇第4回セミナー:テーマ「医師からの提言」2012年9月15日−16日(横浜市)◇第5回セミナー:テーマ「Move動くということ」2013年9月14日−15日(大阪市)◇(予定)第6回セミナー:テーマ「(未定)」2014年11月29日−30日(福岡市)。故糸賀一雄先生が1963年に述べられた「身体的、精神的な不幸を一身に担って生まれてきたこの子どもたちにも、幸福に生きる権利がある」、さらに療育の父である故高木憲次先生が1926年に提唱された療育理念をわれわれは重く受け止めている。彼らの障害は、障害者の中でも少数派であり、そのことをして、彼らが医療の恩恵を他の国民と等しく受けることが、脅かされる危険性がある。彼らの障害の理学療法を研究し実践するために、全国の志ある者たちが協力し発展させることが、彼らの豊かな未来を切り開くとともに、この時代の医療・リハビリテーション・福祉・教育の発展にも大きく寄与していくと考えている。さらに彼らがひとりの人として楽に生活できることを実現するため、理学療法士は実践的治療技術を向上させるためのトレーニングが同時進行的に必要となる。重症児者は、脊柱側彎に代表される脊柱の問題が大きい。脊柱の不動や変形は肋骨の運動性低下を招き、胸郭呼吸運動障害や消化器機能に悪影響を与える。脊柱の治療には、脊柱起立筋群を緩和し、コアスタビリティ筋である多裂筋を活性化する。同時に腹直筋群が同時に過緊張や低緊張を示すため、腹直筋・腹斜筋を分離して、それぞれの筋を活性化・緩和させて腹部周囲の安定性を向上させ、脊柱の運動性維持や変形予防を目的に治療する。これはひとつの方法であるが、確かな治療技術のトレーニングを積み重ね、理学療法士個々の包括的能力を日々高めていかねばならない。以上の理念と質の向上を目指すことが職種の専門性向上に寄与すると信じ、シンポジストとして発信したい。
略歴
金子断行(かねこたつゆき):理学療法士・医療技術学修士。ボバース記念病院、国立精神神経センター武蔵病院、国立神経研究所疾病研究第二部併任研究員を経て現職。読売新聞主催光と愛の療育研究 最優秀論文賞受賞。第42回日本理学療法学術大会優秀賞受賞。日本重症心身障害学会編集委員・重症心身障害理学療法研究会幹事長・アジアボバース講師会議学術局長等。監修:重症心身障害児者の呼吸リハビリテーション (アローウィン)、編集:正常発達(三輪書店)、分著:発達障害支援ハンドブック(金子書房)、障害児者の摂食嚥下呼吸リハビリテーション(医歯薬出版)、こどもの摂食嚥下障害(永井書店)、共訳:最重度知的障害・重複障害の理解と対応(診断と治療社)等多数。