日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム2:重症心身障害児(者)を支える職種の専門性向上
医師に対する重症心身障害児者医療教育について
三浦 清邦長谷川 桜子松葉佐 正
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2014 年 39 巻 2 号 p. 207

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抄録
全国で重症心身障害児者(以下、重症児者)医療への関心が高まってきている中、われわれの重症児者医療教育の実践を振り返り、改めて医師に対する重症児者医療教育について考えてみたい。【重症児者と医師の関わり】医療ニーズの高い重症児者には、定期受診する専門療育医療機関と、日常疾患に対応するかかりつけ医療機関(訪問診療も含む)、救急・入院に対応する基幹病院(大学病院・小児病院も含む)の3種類の医療機関のネットワーク構築が必要である。入所の場合は、旧重症心身障害児施設・病棟(以下、重症児施設)などの専門療育医療施設と、基幹病院とのネットワークになる。専門療育医療施設以外の機関の多分野の医師の重症児者医療に対する理解が不十分で、ネットワークが十分構築できていない地域があるのが現状である。臨床に従事する医師は、将来どこかで必ず重症児者に関わることになるので、重症児者の特殊な病態・治療法や福祉制度の基本、家族の思いを学ぶことは、すべての医師にとって必須だと思われる。【医学部における重症児者医療教育の現状】全国の医学部における重症児者医療教育の実態を知るために2つの調査を実施した。1.80大学医学部小児科に重症児者医療教育に関する調査用紙を郵送し72大学90%から回答を得た。重症児者医療教育は37大学51%(講義28大学39%、臨床実習24大学33%)で実施されていた。2.80大学医学部の医学教育ユニットの責任者または医学教育「早期体験学習」担当者宛に、保健・医療・福祉・介護等の機関での早期体験学習(early exposure)に関する調査用紙を郵送し66大学83%から回答を得た。早期体験学習は58大学88%で実施され、重症児施設・病棟等では32大学55%で実施されていた。【家族参加型の重症児者医療教育】学生に重症児者医療の魅力を伝えるためには、家族参加型教育が最適であると考え、名古屋大学では重症児と家族が参加する90分講義一コマ(4年生)と臨床実習1日(心身障害専門医療機関、全5年生)を実施してきた。学生アンケートで、将来の重症児者医療への関わりについては、講義前・後・実習後で、「将来重症児者に関わることは想像できない」が26%・7%・2%へ減少、「何科にいっても関わる可能性があると思う」は52%・67%・87%へ増加、「将来自分が専門として関わる可能性もあると思う」は21%・25%・10%と変化した。家族参加型の講義と臨床実習は、将来医師として重症児者医療に関わることへの意識付けに有用であると思われた。【今後の重症児者医療教育】医師が重症児者や家族に接することが重要であり、それが可能となる教育システムを全国の医学部、医療機関が構築することが必要だと思われる。私は、医学部1.2年のearly exposureに続き、臨床教育(主に小児科)で講義、療育機関等での臨床実習をカリキュラムに組み込み、最低3回、学生時代に重症児者に接する機会を提供すべきと考えている。可能であれば家族参加型の教育実施がより効果的だと思われる。また、卒業後の初期臨床研修、後期臨床研修でも重症児者医療に触れる機会を作るべく、重症児施設研修を必須事項としてぜひ組み込みたい。小児科医になってからも一定期間、重症児施設や療育施設で勤務し、障害児者福祉・地域療育システムを理解し、療育的支援・家族支援を研修することは、小児科のどの分野に進む上でも貴重な経験となる。一方、家庭医として将来重症児者に関わる医師も今後増えると思われるので、後期臨床研修などの家庭医研修プログラムにも重症児者医療研修を組み込む必要性を感じている。これらの重症児者医療教育において、重症児施設の役割は重要である。重症児者施設は、全人的医療、生命・人間の尊厳を学ぶ場としても適していると思われる。医師の教育の場としてはもちろん、教員派遣などを含めた大学との協力体制の構築など、積極的に重症児者施設が重症児者医療教育に参加することにより、全国の医師への重症児者医療教育が発展することを期待したい。 略歴 1984年3月 名古屋大学医学部卒業 1987年4月 名古屋大学医学部小児科大学院入学 1991年4月 愛知県心身障害者コロニー中央病院小児神経科 2007年4月から 豊田市こども発達センター 小児神経科 2011年4月から 豊田市こども発達センター 副センター長 2011年11月 名古屋大学大学院医学系研究科 障害児(者)医療学寄附講座 教授
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© 2014 日本重症心身障害学会
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