抄録
背景 近年、医療依存度の高い子どもへの在宅療養支援の必要性について、かなり広く知られるようになってきた。また、訪問看護をはじめとした在宅医療によるサポートを受ける子どもも、徐々に増えてきている。しかし一方で、子どもに対して訪問診療を行う医療機関はいまだ少ない現状である。
演者の取り組み 演者は2012年8月、在宅医療に特化した在宅療養支援診療所を堺市に開業し、年齢・疾患に関わらず訪問診療を実施している。2014年5月末までの1年10カ月間に、小児及び小児期に生じた障害を持つ成人に関する相談が80件あり、51件に訪問診療を開始した。病院からの相談により訪問診療を開始したのは19件であり、うち14件は退院調整の際の依頼であった。その他の相談元は多い順に、両親(17件)、訪問看護師(7件)、保健師(5件)、基幹型包括・相談支援専門員(3件)であり、病院では訪問診療の調整を受けていなかった子どもにも、広くニーズが潜在していた。必要な医ケアは、在宅人工呼吸6例、気管切開17例、気管内・口鼻腔吸引34例、在宅酸素24例、経管栄養45例、中心静脈栄養2例(重複あり)で、4例は医ケアが全く必要ない方であった。
課題 小児在宅医療の担い手は全国的に不足している。現状では、成人の在宅医療を担っている訪問看護ステーションや在宅医に、小児への対応を依頼する場合が多い。多くの在宅医療の担い手にとって、小児は不慣れである上に、紹介する側の病院小児科医や療育機関、教育機関などとのつながりがもともと薄いことも、サポートを行う上での大きなハードルとなっている。成人領域の在宅医療においては、病院医師・在宅医・訪問看護の三者での役割分担と連携がある程度定型化しているが、小児では成人のような有機的に結びついたサポート体制の構築が難しい。2009年に実施した訪問看護ステーションへのアンケートでは、小児にも成人同様に在宅医が関与し、病院と訪問看護の間に入って相談役になることを求める声が多数寄せられた。
また、医療依存度は、全身状態の不安定さや生活を送る上での大変さと、必ずしも比例するとはかぎらない。在宅人工呼吸を要するなど、医療依存度の高い子どもへの在宅療養支援については注目を集めている一方で、一見医療的には軽症に見える子どもの中にも、様々な理由で生活に大きな問題を抱えているケースがある。病院から見た小児在宅医療の位置づけは、「安全に退院するためのサポート」ととらえられていることも多く、「無理なく在宅生活を送るためのサポート」としての小児在宅医療のとらえ方は、まだ浸透しているとは言えないと感じる。むしろそのような問題の抽出は、保健師や地域包括・相談支援専門員などの方から行われており、多職種による地域ネットワークの必要性は高い。
展望 現状では、一部の先進的な取り組みが注目を浴びることが多い小児在宅医療であるが、長期的には担い手を増やし、裾野を広げることが重要であるのは間違いない。成人領域の在宅医や小児科開業医、訪問看護ステーションなどの小児在宅医療への参画を促すためには、特定の人に過度な負担がかかることがないように、それぞれの立場から「少しがんばればできる」という形を作ることが必要と考えている。地域により医療や福祉の環境は大きく異なるため、この実現のためには、それぞれの地域に合わせた工夫を行うことが求められる。まずは、地域ごとに多職種が顔を合わせて問題を共有することで、顔の見える連携を進める必要があるだろう。
略歴 1975年生。2001年広島大学医学部卒業。広島大学医学部附属病院小児科、広島市立広島市民病院未熟児新生児センター、広島県厚生連尾道総合病院小児科、大阪府立母子保健総合医療センター新生児科、医療法人財団千葉健愛会あおぞら診療所新松戸。2012年よりかがやきクリニック院長。