抄録
はじめに
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))のような自己表現が難しいまたは、伝わりにくい患者においても、健常者と同様に癌を発症する可能性がある。今回当院において視力がほとんどなく、発達精神年齢が1歳未満、「うぇうぇ」ですべてを表現するT氏が大腸癌と診断された。T氏の家族は抗癌剤等の積極的な治療を希望せず、苦痛が少なく、自然な状態での最期を望んだ。それに応じる形で緩和ケアを実践すべく、医師・病棟スタッフに薬剤師の参画を求められ介入した。そこで痛みと、痛み以外の発声を区別し、的確な疼痛コントロールを行うためのアセスメントシートを作成し、導入することで標準化を図った。薬剤師は、容態の確認を兼ねて毎日訪問し情報を収集、分析した上で医師等にフィードバックした。その結果、医師・薬剤師・病棟スタッフの連携が、的確な痛みのコントロールを得ることにつながり、緩和ケアをスムースに行うことが出来たので、その症例を報告する。
患者背景および症例
52歳 男性 大島分類1 主病名:てんかん
1971年より他施設に入所、2003年4月に当施設に入所となる。2005年CT上で影がみられ、6カ月ごとにCEAの値をフォローしていたが、数値の上昇がみられたので2012年5月他医療機関にて精査を行い、大腸癌タイプ3と診断される。診断直後より内服麻薬開始、その後貼付剤、注射剤にて緩和ケアを行っていたが、2013年7月容態が悪化し、永眠された。
考察
今回、医師・薬剤師・病棟スタッフと連携をはかり、癌末期の自己表現が出来ない重症児(者)に対して、誰でも痛みを評価できるよう基準化し、的確な痛みのコントロールを実行することにより、QOLの向上につなげることができた。