抄録
はじめに
重症心身障害児は環境と相互作用することが難しく、場面の変化がパニックや不穏等、情緒の乱れの起因となりやすい。今回、修学旅行での電車移動に対する適応に向け、音の学習を中心にアプローチを行った。以下に報告する。
対象児
10代男児 GMFCSレベルV 視覚:光を感じる程度。聴覚:過敏。苦手な音や場面の変化、普段と異なる状況下で不穏となる。後に突発的な泣きや自傷行為が出やすく、過去の校外学習では頻発していた。
方法
新幹線・電車の音を中心に、旅行に関連した音を流した。児の様子を見つつ、徐々に個室から廊下へと場面の変化を伴うよう段階付けをした。学校・病棟でも音を聞く機会を設け、約1カ月間継続した。
結果
走行音等、メロディー以外の音にも徐々に体を揺らして楽しむ姿が見られた。場面の変化を伴った状況下では、様子を伺う姿はあるが不穏にはならなかった。当日は、電車の音を聞き入る姿があるほど、場面・音の変化への受け入れは良好であり、自傷行為や不穏状態は見られなかった。後の生活への影響も特に見られていない。
考察
自身で外界に働きかけることが困難な児にとって、聴覚からの情報は外界受容を図る主な手段といえる。ゆえに、児自身の音への受容が、場の適応に大きく影響すると考える。今回、旅行で想定される音から楽しさを見出し、反復して聞いたことで、電車音が馴染みある音として受容出来たことが伺える。この音を通して、“電車移動”という場面変化への不安に、肯定的要素を加えられたことが車内で安定して過ごせた要因の1つであると考える。情緒の安定を図るためには、周囲の情報を制限した環境設定も有効な手段といえる。しかし、外界受容を図る機会をも制限することになり兼ねず、場面変化への不適応に対する直接的解決とはならない。各場面における情緒の変化を捉え、受容し得る感覚情報から適応を図ることも有効な手段の1つであると考える。