抄録
はじめに
Angelman症候群(Angelman Syndrom:AS)は、第15染色体長腕q11−q13の異常により、重度運動発達遅滞や知的障害、言語障害、失調性歩行、容易に誘発される笑い、易興奮性、多動等を特徴とする。今回、重度AS患者一症例の発達に対する作業療法(以下、OT)の介入および経過を報告する。
症例紹介
AS男児。2歳で掴まり立ち可能。インフルエンザ罹患後てんかん重積発作により、つま先立ち、摂食不能で経管栄養となる。2009年5月、自宅退院困難で当院入院。
2012年4月、5歳6カ月。寝返り、起き上がり、肘這い可能だが、座位を設定しても保持できず転倒。身体的には全身的に低緊張で体幹の失調が強い。精神的には、多動で危険への認識が乏しくなんでも口に入れるため、病棟では監視下以外での動きを制限せざるを得なかった。
介入方法
発達を促す環境の獲得を目標に、2012年4月から同年11月まで、1回20分週2、3回、OT実施。開始時、失調を伴う体幹の不安定さから監視下以外では制限されることが本症例の発達を阻害する要因と考えた。症例の発達には自己決定が許容される安全な環境が必須であり、まず姿勢保持のための体幹のコントロールに着目し、介入を開始した。
経過
1期4月〜6月、上肢の支持を伴った床座位獲得のため、症例が興味を持つ玩具を提示、前方から腹部の筋緊張に働きかける体幹のコントロールを繰り返した。
2期7月〜9月、座位での空間における玩具操作獲得のため、背部の筋緊張に働きかけて体幹中間位の保持と肩甲帯のコントロールを繰り返した。この頃より、多動が減少して座位で過ごせるようになってきた。
3期10月、さらなる抗重力伸展活動を促すため、掴まり立ちでの上肢使用、stop standingを繰り返した。11月、環境調整したベッド内での立ち上がりと尻餅をつくような着座が可能になり、掴まり立ちが獲得された。
まとめ
今後、限られた環境の中でも症例の最大限の発達を促していけるよう、OTの介入を行ってきたい。