抄録
はじめに
重症心身障害児(以下、重症児)では、反復する麻痺性イレウスのため計画した経腸栄養が実施できず低栄養状態に陥ることもしばしば認める。さらに肝臓等の機能障害を併発した場合、栄養組成の検討も要する。今回われわれは、肝機能障害を併発した長期中心静脈栄養中の児を経験し、経腸栄養への移行過程およびその後の経過を報告する。
事例
現在12歳男児。生後4カ月時に溺水による心肺停止となり、低酸素性脳症後遺症により人工呼吸管理中の重症児。5歳時より胃食道逆流が著明となり麻痺性イレウスを反復し、経過中膵炎も認めた。経腸栄養の再開が困難となり、6歳より中心静脈栄養となり脂肪肝および肝機能障害を併発。8歳時当施設へ長期入所。入所後乳酸菌製剤を投与し、入所5カ月目よりグルタミンと食物繊維も加え、入所6カ月目より経腸栄養剤の空腸への投与を開始し徐々に増量した。中心静脈栄養を減量し、入所1年後に完全経腸栄養へ移行したが後に低栄養状態となり、間欠的に経静脈栄養の補充を要した。経腸栄養剤の組成を分枝鎖アミノ酸および中鎖脂肪酸を重視して再調整し、栄養状態は改善した。入所3年目より経静脈栄養の補充なく経腸栄養のみで栄養状態は維持でき肝逸脱酵素の検査値も正常化したが、脂肪肝や膵萎縮は変化なく残存している。また、中心静脈栄養カテーテル留置中のみならず抜去後の経腸栄養移行期にも敗血症を認め、腸内細菌の関与も考えられたが、栄養状態が安定すると易感染性はなくなり、約2年間抗菌薬の点滴加療も行っていない。
考察
長期中心静脈栄養施行中であった重症児の経腸栄養移行において、乳酸菌製剤を長期間大量投与の後、グルタミンと食物繊維の投与を加え腸管機能の改善を図り、その後経腸栄養剤の投与を開始した計画が奏功したと考える。さらに、栄養状態の改善および経腸栄養が安定した後は重症感染症の罹患なく、経腸栄養は免疫能改善にも寄与したと考えられた。