抄録
雲一つない秋晴れの京都にて「見つめ直そう、重症心身障害医療・福祉の原点」をテーマとした今年の日本重症心身障害学会学術集会に参加した。シンポジウム4つ、特別講演2つ、教育講演1つと意欲的な構成を作り上げていただけた。9月末にしては高い気温となり、口演・ポスター257演題と学会会場にも熱い発表が繰り広げられた。
40回目を迎えたこの学会のなりたち、貫かれてきた精神、歴史的背景を知ることはとても大切だと感じるのはなぜだろう。重症心身障害を囲み積み上げられてきた世界は医療のみではない、一人の人としての生活・生き方や背景にある家族・制度・時代まで拡がりと多様性を含む領域だからかもしれない。
髙谷 清先生の特別講演では、重い障害のある人々への深い洞察と暖かいまなざしが感じられた。「快」は取り組みの基本となり、働きかける側の受け止め方次第で双方向的な関係性や発達への糸口も生まれてくるのだろう。“抱きしめてBIWAKO” の映像にはとても新鮮な思いを抱かせていただいた。すでに27年前に世の中の人々を巻き込み、豊かな心持を広めながら、施設建設を目途とする、スケールの大きい発想と行動に再度感動していた。重度の障害者などを排除する世の中の動向への警鐘も伺い、改めて、生きる喜びや発達する権利を大切にしたいと思った。小西行郎先生の赤ちゃん学の特別講演はヒトの発達原理のおもしろさに引き込まれ、集学的で独創的な研究手法には障害へのはたらきかけに関する研究などへの科学的アプローチを深める必要性を強く感じた。
また、世界に誇れるiPS細胞について、井上治久先生がとてもわかりやすくお話しくださり、iPS細胞を用いた疾患研究・病態解明、治療への道筋に急速な変化がもたらされていると実感した。若い医師や科学者の多くがこの大きな夢に立ち向かう気持ちを思い浮べ、研究の成果・進展を願わずにはいられない。
4つのシンポジウム①障害者総合支援法からみた重症心身障害、その課題と方向性、②重症心身障害児(者)を支える職種の専門性向上、③利用者の権利・最善の利益と治療方針決定、④地域生活と医療的ケア、快適に生きるための課題とこれから。それぞれ充実した内容で、現在の重症心身障害の側面を明らかにしてくれた。愛知県心身障害者コロニーこばと学園 麻生幸三郎先生の問題提起により急遽取り上げてくださった③は、この学会の特徴を反映したシンポジウムでもあった。「重症児者の意向」という正解がえられない問題への対応に多くの施設が悩みをもっている。親の立場を強く意識した発言をされた児玉真美氏、権利擁護を確保するための制度や仕組みにたよる危険性を指摘され、日常的なかかわりの中でどれだけきちんと向き合い情報共有や意志決定を積み重ね信頼関係が構築されているかが大切とお話しされた。宮坂道夫先生、新谷正敏氏からも意見をいただき、ケースの集積、事例集作成などの検討は進める方向性だろうと思えた。本学会では多職種がかかわり、垣根のない議論を行える特徴が十二分に発揮されていた。女性の参加・活躍も多く、ファッションショーもこの学会ならではの催しであろう。
重症心身障害の学会の歩みを顧みると、約50年前に全国に施設ができたことがすべての始まりである。もし、そのような国としての施策がなければ、外来診療と入院だけであったら、重症心身障害児(者)への理解の深まりはこれほどではなかっただろう。朝起きて、食事をし、身支度して、一日の日程をすごし、入浴し、寝顔をみて… 重症児(者)の生活そのものにかかわり、成長を見守ってきた視点が、医療の枠を超えて育まれてきたと思える。そう考えると、この学会に参加して感じられる暖かさに納得がいく。
各職種毎の専門性の向上は、同じ方向をみて手探りしながら進んできた仲間がいて強まってきたことが、今回のシンポジウムでも再認識されたように思う。そして、今後もより一層の深まりが期待される。社会情勢、生活環境、制度変化など重症心身障害を取り巻く環境変化に応じて、しなやかに対応しつつ、周辺に重症心身障害に対する理解が拡がり、仲間や応援団を増やしていくことが大切になってきたと実感させられた。
そのためにも、医療・看護・療育・教育における重症心身障害の特徴や対応を整理・体系化していく作業も、実証を念頭に進められるべきであろう。医療の高度化・分業化・合理化に逆らう部分もあるかもしれないが、私たちが培ってきた専門性を言語化して広め、携わる人々を拡げていきたい。
今年も元気・勇気を得て、明日からのやる気の元をいただきました。一会員として、開催の労をとられた宮野前健会長はじめ関係者の方々に感謝申し上げます。