日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
39 巻, 3 号
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第一報
巻頭言
  • 井合 瑞江
    2014 年 39 巻 3 号 p. 371-372
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    雲一つない秋晴れの京都にて「見つめ直そう、重症心身障害医療・福祉の原点」をテーマとした今年の日本重症心身障害学会学術集会に参加した。シンポジウム4つ、特別講演2つ、教育講演1つと意欲的な構成を作り上げていただけた。9月末にしては高い気温となり、口演・ポスター257演題と学会会場にも熱い発表が繰り広げられた。  40回目を迎えたこの学会のなりたち、貫かれてきた精神、歴史的背景を知ることはとても大切だと感じるのはなぜだろう。重症心身障害を囲み積み上げられてきた世界は医療のみではない、一人の人としての生活・生き方や背景にある家族・制度・時代まで拡がりと多様性を含む領域だからかもしれない。  髙谷 清先生の特別講演では、重い障害のある人々への深い洞察と暖かいまなざしが感じられた。「快」は取り組みの基本となり、働きかける側の受け止め方次第で双方向的な関係性や発達への糸口も生まれてくるのだろう。“抱きしめてBIWAKO” の映像にはとても新鮮な思いを抱かせていただいた。すでに27年前に世の中の人々を巻き込み、豊かな心持を広めながら、施設建設を目途とする、スケールの大きい発想と行動に再度感動していた。重度の障害者などを排除する世の中の動向への警鐘も伺い、改めて、生きる喜びや発達する権利を大切にしたいと思った。小西行郎先生の赤ちゃん学の特別講演はヒトの発達原理のおもしろさに引き込まれ、集学的で独創的な研究手法には障害へのはたらきかけに関する研究などへの科学的アプローチを深める必要性を強く感じた。  また、世界に誇れるiPS細胞について、井上治久先生がとてもわかりやすくお話しくださり、iPS細胞を用いた疾患研究・病態解明、治療への道筋に急速な変化がもたらされていると実感した。若い医師や科学者の多くがこの大きな夢に立ち向かう気持ちを思い浮べ、研究の成果・進展を願わずにはいられない。  4つのシンポジウム①障害者総合支援法からみた重症心身障害、その課題と方向性、②重症心身障害児(者)を支える職種の専門性向上、③利用者の権利・最善の利益と治療方針決定、④地域生活と医療的ケア、快適に生きるための課題とこれから。それぞれ充実した内容で、現在の重症心身障害の側面を明らかにしてくれた。愛知県心身障害者コロニーこばと学園 麻生幸三郎先生の問題提起により急遽取り上げてくださった③は、この学会の特徴を反映したシンポジウムでもあった。「重症児者の意向」という正解がえられない問題への対応に多くの施設が悩みをもっている。親の立場を強く意識した発言をされた児玉真美氏、権利擁護を確保するための制度や仕組みにたよる危険性を指摘され、日常的なかかわりの中でどれだけきちんと向き合い情報共有や意志決定を積み重ね信頼関係が構築されているかが大切とお話しされた。宮坂道夫先生、新谷正敏氏からも意見をいただき、ケースの集積、事例集作成などの検討は進める方向性だろうと思えた。本学会では多職種がかかわり、垣根のない議論を行える特徴が十二分に発揮されていた。女性の参加・活躍も多く、ファッションショーもこの学会ならではの催しであろう。  重症心身障害の学会の歩みを顧みると、約50年前に全国に施設ができたことがすべての始まりである。もし、そのような国としての施策がなければ、外来診療と入院だけであったら、重症心身障害児(者)への理解の深まりはこれほどではなかっただろう。朝起きて、食事をし、身支度して、一日の日程をすごし、入浴し、寝顔をみて… 重症児(者)の生活そのものにかかわり、成長を見守ってきた視点が、医療の枠を超えて育まれてきたと思える。そう考えると、この学会に参加して感じられる暖かさに納得がいく。  各職種毎の専門性の向上は、同じ方向をみて手探りしながら進んできた仲間がいて強まってきたことが、今回のシンポジウムでも再認識されたように思う。そして、今後もより一層の深まりが期待される。社会情勢、生活環境、制度変化など重症心身障害を取り巻く環境変化に応じて、しなやかに対応しつつ、周辺に重症心身障害に対する理解が拡がり、仲間や応援団を増やしていくことが大切になってきたと実感させられた。  そのためにも、医療・看護・療育・教育における重症心身障害の特徴や対応を整理・体系化していく作業も、実証を念頭に進められるべきであろう。医療の高度化・分業化・合理化に逆らう部分もあるかもしれないが、私たちが培ってきた専門性を言語化して広め、携わる人々を拡げていきたい。  今年も元気・勇気を得て、明日からのやる気の元をいただきました。一会員として、開催の労をとられた宮野前健会長はじめ関係者の方々に感謝申し上げます。
原著
  • −平成25年度全国日中活動支援事業所アンケート調査報告−
    水戸 敬, 高嶋 幸男, 末光 茂
    2014 年 39 巻 3 号 p. 373-378
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(重症児(者))通園事業が法制化されて1年を経過した時点での通園事業の問題点を改めて検討するためにアンケート調査を行った。収入の不安定化、事務量の増加、スタッフ確保の難しさ、利用者への対応の多様化などの新しい問題点に加えて、事業所の数と広さの不足、送迎問題、医療体制などの問題点が改めて浮き彫りとなった。さらに、NICU(新生児集中治療室)長期入院児、移行期医療(トランジション)の問題も今後対応して行かなければならないが、早急に解決すべき問題として事業所数の増加、利用者や家族の高齢化や医療度の高度化に対しての送迎体制の強化が挙げられた。
  • 菱川 容子, 橋本 真帆, 倉橋 宏和, 別府 玲子, 大谷 可菜子, 西村 秀一
    2014 年 39 巻 3 号 p. 379-386
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    2013年6月から7月にかけて、当センターの重症心身障害児(者)病棟30名中13名が発熱、咳嗽、鼻汁や痰の増加を主症状とする呼吸器症状を呈し、うち6名に喘鳴がみられ2名が死亡した。ペア血清を採取できた9名でヒトメタニューモウイルス抗体価の有意な上昇を認め、同ウイルスによるアウトブレイクと判断された。発症者13名の急性期抗体価は1:200から1600であり、既感染者でも再感染し、ときに重症化することが示唆された。本事例により、ヒトメタニューモウイルス感染では重症心身障害児(者)のようなハイリスク者は重症化しやすいこと、さらに合併症などで死亡するきっかけになる可能性もあることが示され、本感染症の発生の早期発見と施設内の流行を防ぐための対策の必要性が明らかになった。
  • 森本 真仁, 橋本 俊顕, 洲﨑 一郎, 里村 茂子, 島川 清司, 内藤 悦雄, 浜田 茂明, 京谷 庄二郎
    2014 年 39 巻 3 号 p. 387-395
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))に関与する諸要因の相互関連性を探索するため、現状の重症児(者)の実態を調査し、統計学的解析を行った。対象はAセンターに、2012年4月1日から2013年3月31日の間入所している重症児(者)135名で、診療録より患者実態を調査し、そのうち先行研究や調査結果より重症児(者)に関わる13の因子についてロジスティック回帰分析を行った。解析結果より16とおりの因子間に関連性が認められ、「脳性麻痺」と「1年以内のてんかん発作あり」の因子間で逆の関連が認められた。特に「横地分類(改訂大島分類)A1-C3」、「超・準超重症児(者)」、「てんかん」について複数因子との関連が統計学的に認められた。以前より重症児(者)の発生や病態・予後等には様々な因子が関係していると推測されてきたがその根拠は乏しく、正確な疫学研究は現在でも行われていない。今後エビデンスを蓄積し検証していくことで、重症児(者)個別化医療の指標の確立やてんかん発作の予後判定につなげていきたい。
  • 池田 歩, 境 信哉, 星 有理香, 桜庭 聡, 吉田 雅紀, 平元 東, 加藤 光広, 八田 達夫, 平山 和美
    2014 年 39 巻 3 号 p. 397-404
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、重症心身障害児(者)(以下、重障児(者))を対象とした大脳性視覚障害重症度評価スケール(以下、CVIスケール)を開発することである。CVIスケールは8項目から構成され、医療等の専門職50名が32枚の仮想患者カードを順位付けしたものをコンジョイント分析することにより得点の重みづけを行った。また、CVIスケールを24名の重障児(者)に実施し、スケールの重症度得点と視運動性眼振法によるコントラスト感度とを比較することにより妥当性を検討した。検査者間信頼性はVTRによる医療等の専門職34名の判定の一致度を級内相関係数(以下、ICC)にて確認した。その結果、基準関連妥当性はr =−0.50、検査者間信頼性はICC=0.59となり、いずれも中程度の有意な相関が認められた。CVIスケールは、入手が容易で特別な機器を要さないという簡便性を有しながら中程度の妥当性と信頼性も備えていることから、重障児(者)に対する視覚の介入において有用な評価法となり得ることが示唆された。
  • -横浜市におけるサービス利用の調査から-
    田中 千鶴子, 濵邉 富美子, 俵積田 ゆかり, 菅原 スミ
    2014 年 39 巻 3 号 p. 405-414
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    本研究は、医療的ケアを必要とする重症心身障害者(以下、重障者)と家族に焦点を当て、その生活状況、生活の維持に関わる主な在宅支援サービスの利用状況、利用における問題点と課題を家族の視点から明らかにし、今後の在宅支援のあり方を検討した。その結果、重障者と介護する家族の生活は深刻な状況にあり、乳幼児期や学齢期とは異なった支援の問題と課題が明らかになった。今後の在宅支援サービスの構築に向けて次のような課題があることを指摘した。すなわち、1.重障者と介護者の特徴の理解とニーズの潜在化の認識の必要性 2.小規模の多機能施設拡充の必要性 3.医療的ケアの実施における関係性重視の必要性 4.介護者のQOL保障を前面に打ち出した家族支援施策の必要性についてである。
  • −罹患率、診断と治療についての検討−
    曽根 翠, 荒木 克仁, 倉田 清子, 佐々木 征行
    2014 年 39 巻 3 号 p. 415-420
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    成人重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の悪性腫瘍について大規模調査を実施した。最初にSMIDデータベースを用いて2000年~2004年の国立病院機構成人入所者を対象として罹患率を算出して日本成人と比較し、臓器別に罹患率・罹患年齢・生命予後を調査した。次に、13の重症児(者)施設で患者の有無とその症状・検査・治療についてアンケートを用いて調査した。罹患率は重症児(者)群2.5‰、対照群5.8‰で重症児(者)群が有意に低かった。臓器別罹患率では原発臓器不明が最も高かった。罹患年齢は30歳代から50歳代に分布し、1年生存率は57%であった。アンケートで抽出された悪性腫瘍患者7名中5名は症状が出てから診断され、5名は手術を受けていた。重症児(者)の悪性腫瘍は進行してから発見されることが多く、発症率の高い原発臓器が健常者と異なるので、早期発見のためには独自のスクリーニング法の策定と検証が必要と思われた。
  • 水野 勇司, 古川 牧緒, 松﨑 義和, 宮﨑 信義
    2014 年 39 巻 3 号 p. 421-426
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)を対象に、細径経鼻内視鏡検査を行い、上部消化管出血を来した群と対照群について、臨床背景、内視鏡所見、対策、転帰に関して検討した。年齢は9歳~64歳(平均33.9歳)で、脳性麻痺が35例、その他の神経筋疾患が16例であった。出血群は20例、非出血群は31例で、平均年齢は30.8歳と35.9歳、男女比は1:1と1:1.58、胃酸分泌抑制剤の服薬率は25.0%と41.9%、食道裂孔ヘルニアの合併率は40.0%と16.1%、胃炎の合併率は45.0%と35.5%であり、統計上2群間に有意差はなかった。逆流性食道炎の合併率は、55.0%と3.2%で出血群に有意に多く認められた。重症心身障害児(者)では、胃潰瘍や十二指腸潰瘍にみられるような新鮮血の大量吐血よりも、コーヒー残渣様嘔吐や胃内容の吸引といった軽微な消化管出血の合併の方が多く、その主因は逆流性食道炎によることが判明した。
  • 湯浅 正太, 中川 栄二, 竹下 絵里, 石山 昭彦, 齋藤 貴志, 斎藤 義朗, 小牧 宏文, 須貝 研司, 佐々木 征行, 福本 裕, ...
    2014 年 39 巻 3 号 p. 427-433
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    近年Haemophilus influenzae(H. influenzae)、Streptococcus pneumoniae(S. pneumoniae)の耐性菌の増加が治療上の問題となっている。今回われわれは当院において2010年4月から2013年3月の期間に痰培養を採取した神経筋疾患患児を対象に、分離されたH. influenzaeとS. pneumoniaeの抗菌薬耐性の状況を調査した。β-lactamase non-producing ampicillin resistant(BLNAR)H. influenzaeはH. influenzae全体の48%、penicillin- resistant S. pneumoniae(PRSP)はS. pneumoniae全体の52%を占めていた。喉頭気管分離術施行例や重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))ではBLNARやPRSPの分離率が高い傾向にあり、特にS. pneumoniaeでは重症児(者)においてpenicillin-susceptible Streptococcus pneumoniae(PSSP)群に比べPRSP/ penicillin-intermediate resistant S. pneumoniae(PISP)群の分離数が有意に高かった(p<0.05)。耐性菌の発生を抑えることやその感染に伴う重症化を防ぐためにも、抗菌薬の適正使用やワクチンによる予防が重要な課題の一つと考える。
  • 浅倉 由紀, 今野 有里, 竹本 聡, 直井 富美子, 須山 薫, 西田 裕哉, 古山 晶子, 田辺 良, 星野 愛, 金子 断行, 村山 ...
    2014 年 39 巻 3 号 p. 435-440
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    神経筋疾患の呼吸障害に対して、呼吸機能評価に基づく個々の症例に合わせた呼吸リハビリテーションが必要である。肺活量や咳の最大流量などの換気力学的なアセスメントに加え、呼吸耐力の把握が必要であり、呼吸耐力を数値化する方法として呼吸耐力低下指数(BITI)が提唱されている。本研究において、神経筋疾患児(者)の長期的なBITIの推移を評価した。そして、呼吸リハビリテーションプログラムにおいて各種呼吸機器の導入や設定内容を変更する際の指標としてBITIの有用性を検討した。対象は、長期的に呼吸リハビリテーションを施行した神経筋疾患児(者)9例とした。結果はBITIの初回評価時と最終評価時の比較で、「改善」、「変化無し」を示した症例が9例中7例であり、呼吸リハビリテーションが奏功したと考える。また、2例においてBITIの評価を基にした呼吸リハビリテーションプログラムの導入や変更で、その後のBITIに改善を認めた。それにより、BITIが呼吸リハビリテーションの導入や変更の指標となり得る可能性が示唆された。今後の課題として評価期間、測定時期の検討が必要であると考える。
  • 牛尾 禮子
    2014 年 39 巻 3 号 p. 441-446
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    本研究は、在宅重症心身障害児(者)の養育者の生活状況全般に注目し、WHOQOL26(身体的領域、心理的領域、社会的領域、環境領域の26項目)、SF-8(全体的健康感、身体機能、日常役割機能、身体の痛み、活力、社会生活機能、心の健康、日常役割機能の8項目)の調査紙、および「自身の生活について日頃感じていること」の自由記述を用いて調査を行った。養育者平均値と国民平均値を比較すると、養育者のQOLは、全体的に低値を示した。WHOQOL26の身体的領域では、「痛みや不快」(養育者平均値3.2±1.0:国民平均値4.1±1.0)、「睡眠と休養」(養育者平均値2.2±0.8:国民平均値3.1±1.0)の差が最も大きく、次いで「移動能力」(養育者平均値2.6±1.0:国民平均値3.3±1.1)であった。SF-8では、家族や友人との付き合いなどを表す「社会生活機能」(養育者平均値40.0±10.0、国民平均値50.1±6.9)が最も低かった。記述では、「自由時間がない」、「介護負担」、「体調が限界」、「睡眠不足」、「生き甲斐がもてない」、など生活の質を低下させている具体的内容が明らかになった。障害児(者)の養育者は、自身の生活を犠牲にすることを当然と考えることが多いが、「健康」で「自分らしく生きる」ことは人生の重要な課題であるために、養育者の生活の質を向上させる支援の必要性が示唆された。
  • -行動反応と心拍反応の出現率およびその一致率による検討-
    田口 愛, 栗延 孟, 木実谷 哲史, 矢島 卓郎
    2014 年 39 巻 3 号 p. 447-459
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    本研究では、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))3名に対し、歌いかけやタッチングによる療育活動を定期的に実施し、継続して療育活動を行った効果について行動反応や心拍反応などから総合的に検討することを目的とした。療育活動は呼名および音楽呈示とし、その活動前後に体調等の評価、活動中における心拍変動や行動の様相のデータを磁気記録した。また、音楽呈示条件は歌いかけ、タッチング、歌いかけとタッチングとし、それぞれ60テンポと120テンポで行った。心拍変動の分析では、特に、歌いかけとタッチングの組み合わせで3名とも心拍減速反応が顕著であった。このことから音楽による療育活動は、歌いかけによる聴覚刺激とタッチングによる触圧覚刺激を併せて行うことが、刺激に対して気づきを促しやすいと推察された。また、個人差はあるものの重症児(者)の特定の行動表出が心拍反応と一致していた。このことは、療育者が重症児(者)の行動面から心的状況を推測できる可能性を示しており、このことを療育者が知ることで、適切な働きかけを行う手掛かりになると考えられた。
症例報告
  • 櫻井 篤志, 増田 俊和, 金子 広司
    2014 年 39 巻 3 号 p. 461-466
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    症例は食事熱量制限にもかかわらず体重増加を来し、2型糖尿病を発症した59歳の女性重症心身障害者である。1日血糖では食後血糖が200 mg/dl以上になり、早朝空腹時血糖も140 mg/dlと高値を示した。また軽度の高脂血症も認められた。それまでの熱量 900 kcal/日、炭水化物量 145 g/日の食事内容を主食のみ制限し、後者を126 g/日とした。その分、副食を増量した結果、熱量は1,000 kcal/日となり、脂質エネルギー比も増大した。本食事療法によって、早朝空腹時血糖は120 mg/dl未満、食後血糖は150 mg/dl未満に低下した。総熱量と脂質摂取量は増加したが、血清脂質は改善し、減量もなしえた。すでに本栄養療法開始1.5年を経過するが、一時的に軽度の貧血を認めた以外、明らかな有害事象はみられていない。血糖降下薬による副作用の発現のみならず、その発見の遅れが懸念される2型糖尿病合併重症心身障害者において本栄養療法は有用と思われるが、長期的な安全性についてはさらなる経過観察と症例の蓄積が必要である。
  • −症例を通しての施設内での導入方法と効果−
    松林 美子, 井手 秀平, 岸野 亜矢子
    2014 年 39 巻 3 号 p. 467-475
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    唾液の気管内流入のため頻回の気管内吸引を要する単純気管切開を行っている者(以下、単純気管切開者)に、スピーチバルブ(以下、SV)を装着することで、気管内流入が減少することが報告されている。われわれは施設入所中の単純気管切開者1名にSV装着を実施し以下の結果を得た。①経皮動脈血酸素飽和度の上昇と安定が得られた。 ②一日尿量が増加した。これは唾液の気管内流入および気管内吸引量の減少の結果と推察された。③家族や病棟職員への調査では、緊張が減り笑顔が増え発声を聞くことができるようになりコミュニケーションが促進されたという意見が多く、対象者のQOLの向上が示唆された。しかし、気管内の唾液流入防止効果は完全ではなく、SV装着時も十分な排痰ケアと呼吸状態の観察が必要となることが示唆された。側孔のない気管カニューレに対して、機序の理解が不十分な状態でSVを使用することは危険であるが、病棟職員教育や意見交換を行うことで、施設内でも安全に使用することは可能であり、対象者のQOLの向上に有効であると考えた。
  • 大久保 真理子, 中川 栄二, 竹下 絵里, 石山 昭彦, 齋藤 貴志, 小牧 宏文, 須貝 研司, 三山 健司, 佐々木 征行
    2014 年 39 巻 3 号 p. 477-480
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    今回われわれは2カ月間食道に異物が滞留しており、内視鏡的異物除去に至った症例を経験したので報告する。症例は15歳女性。14番環状染色体によるてんかんのため当科通院中であった。大島分類1、有意語はなく意思表示困難であった。頻脈と発汗、前頸部の腫脹が出現し、甲状腺機能は正常、2カ月程度経過をみられていたが、症状改善せず入院となった。頸部CTにて食道内異物を認め、内視鏡的異物除去が行われ頻脈、発汗は軽快した。知的障害児(者)における異物誤飲は本人の訴えが不明確であることが多く、ときに診断が遅れ重症化することがある。家族への詳細な問診と、診察の際に異物誤飲を鑑別として考慮することが重要であると考えられた。
  • 水野 勇司, 相部 美由紀, スビヤント ケイジ, 中山 秀樹
    2014 年 39 巻 3 号 p. 481-486
    発行日: 2014年
    公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)の中には、嘔気、嘔吐、腹部膨満などの消化器症状を呈する例は少なくなく、その原因は多岐にわたり、適切な診断治療が求められる。嘔気と腹部膨満で発症し、約1日の経過で急性死した重症心身障害者の33歳女性例を経験した。腹部膨満、脱水、炎症反応の上昇、多臓器不全、混合性アシドーシス、高アミラーゼ血症を認めた。腹部X線では胃と右下部の腸管内の空気貯留による拡張像を認めた。病理解剖の結果、急性壊死性膵炎と腹膜炎が主因と判明した。膵炎の原因は、バルプロ酸による薬剤性のほかに、喉頭気管分離術と噴門形成胃瘻造設術による胃拡張も誘因と推定された。近年喉頭気管分離術や噴門形成胃瘻増設術を行う例が増えており、今後同様の合併症がおこる可能性に注意が必要である。
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