抄録
はじめに
重症心身障害児者への婦人科診察は困難である場合が多い。その結果、子宮頸がん検診の精度が下がる可能性がある。日本産婦人科学会のガイドラインでは「頸管腺細胞の採取量は異型細胞の検知率の代理指標となり得る」とあり、今回、子宮頸がん検診における頸管腺細胞の採取の有無と内診の可否、また、内診の難しさに関連すると思われる身体所見を検討した。
方法
当施設へ入所している20歳以上の女性22人のうち、親から診察の希望があった21人の女性を対象に腹部エコーと子宮頸部細胞診を施行した。避妊目的で子宮全摘術後の55歳の症例は内診とエコーのみを実施し、細胞診は実施しなかった。後方視的に診療録から婦人科診察と子宮頸部細胞診の情報を得た。また、内診の難しさに関連すると推察される股関節内転筋の筋緊張の高さや股関節脱臼、股関節拘縮、膝関節拘縮の有無などの身体所見は、当施設の理学療法士が評価を行った。
結果
診察を行った21例の平均年齢は40.4歳で、身体所見では股関節内転筋の筋緊張亢進を19例(90.5%)で認め、また、股関節脱臼、股関節拘縮、膝関節拘縮はそれぞれ11例(52.4%)、17例(81.0%)、17例(81.0%)に認めた。内診が可能であった症例は7例(33.3%)で子宮頸部細胞診を実施した20症例全員の細胞診の結果は正常であった。頸管腺細胞の採取率は55%で、内診が可能であった7例中6例(85.7%)で頸管腺細胞が採取され、一方、内診が困難であった13例中では5例のみ(38.5%)で、内診が困難であった症例では頸管腺細胞の採取率が低かった(p<0.05)。次に、身体所見と内診の可否との関連を検討した。股関節内転筋の筋緊張亢進と股関節脱臼は内診の可否とは関連性を認めなかったが、股関節の拘縮や膝関節の拘縮を認める症例では内診が困難であった(p<0.05)。
まとめ
内診が困難な症例では、子宮頸がん検診が正確に行われていなかった。また、内診の難しさは下肢の拘縮が関連していた。