抄録
経腸栄養剤(医薬品型経腸栄養剤と食品型濃厚流動食をあわせて経腸栄養剤とする)は、現在100種類以上の製剤が市販されている。これら多種多様な製剤を患者の状態に合わせて適切に選択するのは、簡単ではない。また、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の場合、摂取カロリーが少ない、寝たきりである、発汗や流涎が多い、褥瘡を作りやすい、などの特徴に配慮した製剤の選択を行わなければならない。
本セミナーでは、北海道療育園で使用経験のある経腸栄養剤の特徴と、製剤の選択の理由について述べる。
1.北海道療育園における経腸栄養剤の基本的な選択基準
2016年4月現在、当園で経腸栄養を施行している入所者は117人である。使用している製剤は16種類で、炎症性腸疾患および消化管機能不全の利用者がエレンタール®を使用しているが、他の15種類はすべて食品型の製剤である。医薬品型の製剤はヨウ素を含有していないか、含有量が少ないため、基本的には食品型の製剤を選択している。便秘がちの利用者には食物繊維の投与量が多すぎないように配慮し、下痢が持続している利用者には食物繊維含有量の多い製剤を選択する。投与カロリーが少ない利用者には、1日あたり800kcalの摂取で栄養素が充足できる製剤を用いる。ダンピング症候群がみられる利用者には、糖の吸収が緩やかな糖尿病用の製剤を選択する。低アルブミン血症を合併している利用者には、分岐鎖アミノ酸が多く配合されている肝不全用の製剤や、窒素源がペプチドであるため腸管からの吸収効率のよい消化態栄養剤を用いる。
2.北海道療育園で使用頻度の高い製剤の特徴
1)CZ-Hi ®1ml=1kcalの半消化態栄養剤であり、1日あたり1000kcalを標準的な摂取量として設計されている。「特別用途食品 病者用食品」の特別栄養食品として唯一国の認可を得ている製剤であり、「食事として摂取すべき栄養素をバランスよく配合した総合栄養食品」と謳われている。食物繊維を100kcalあたり2.4g含有している。
栄養素のバランスがいいので、1日あたりおおむね900kcal以上のカロリーを投与している入所者にはCZ-Hi®を選択することが多い。ただし食物繊維の含有量が多いため、便秘になりやすい人では便秘が増悪しイレウスになることもあるので注意する。
2)YHフローレ®
1ml=1kcalの半消化態栄養剤であり、1日あたり1000kcalを標準的な摂取量として設計されている。窒素源に乳酸菌発酵成分が使用されており、たんぱく質が乳酸菌によってある程度分解されているため、消化・吸収されやすいことが特徴である。また、消化管の蠕動運動を促進する作用のある有機酸・短鎖脂肪酸が含有されている他、ビフィズス菌増殖因子、ガラクトオリゴ糖が配合されている。食物繊維の含有量は100kcalあたり1.8gである。
胃排出遅延や腸管吸収不全、便秘、イレウスなど、消化管の合併症が多い重症児(者)に対し、消化・吸収がよく腸内環境にも配慮されたYHフローレ®は使いやすい。当園ではイレウスを反復したり重度の便秘がある入所者に第一選択肢とすることが多い。
3)ハイネ®
1ml=1kcalの半消化態栄養剤であり、1日あたり800kcalの摂取で、成人に必要な栄養素が摂取できるように設計されている。ハイネ®の食物繊維含有量は100kcalあたり1.2gであり、そのうちすぐれた生理効果をもつグアーガム分解物を1.0g配合している。
当園では一日投与カロリーが800kcalを下回り便秘の合併がある場合には本製剤をまず試してみることが多い。
4)プロナ®
1ml=1kcalの半消化態栄養剤であり、ハイネ®同様1日あたり800kcalの摂取で栄養素が充足できる。本製剤の一番の特徴は、たんぱく質とナトリウムの含有量が多いことである。さらにカルニチンが配合されている。食物繊維含有量は100kcalあたり1.5gである。
重症児(者)は唾液や胃液、発汗、下痢便などからのナトリウムの喪失が多い。従来の製剤で低ナトリウム血症を来す場合には、本製剤への変更を試みている。
5)他の製剤
当日は他の製剤についても若干述べる予定である。
略歴
1993年 旭川医科大学医学部卒業 1993年 旭川医科大学付属病院小児科入局 以降、深川市立病院、社会福祉法人北海道社会事業協会 富良野病院を経て 1997年 北海道療育園 2015年 北海道療育園 診療部長 現在に至る