抄録
はじめに
重症心身障害児において、過剰な空気を嚥下することによる空気嚥下症(呑気症)は、ときにイレウスの原因になったり腹部膨満により栄養が充分にいかないなど看過できない合併症の一つである。今回、様々な治療に抵抗性であった重度な空気嚥下症に対しボトックス療法を行い有効であったので報告する。
症例
11歳女児。32週、1630gで出生した重症仮死による脳性麻痺児。幼少時より重度の四肢麻痺があり、胃瘻、喉頭分離がされている。また、四肢痙縮が強くバクロフェン持続髄注療法もされている。以前より空気嚥下症は存在したが、9歳時にはイレウスの手術施行されている。10歳になりさらに空気嚥下はひどくなり、腹部膨満のため絶食点滴される回数が増えてきた。また、胃瘻部の胃液漏れもひどくなり胃瘻から十二指腸チューブを挿入しそこからミルクの注入、経鼻胃管も同時に挿入し胃内のガス抜きをしつつ対処していた。しかし、十分な効果は得られず絶食になることも多く、徐々に体重減少、るい痩が目立つようになってきた。小児外科と相談し胃食道分離などの外科手術も検討したが、侵襲性が高いため躊躇していた。たまたまの思いつきであったが、ボトックスを嚥下筋に注射し空気嚥下を予防できないかと考え、家族に相談したところ、侵襲性がないならと同意を得たので、十分な副作用と適応外使用であることを説明したうえで施行することにした。左右の顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋に合計100単位を筋注した。効果はてきめんで筋注後に腹部膨満を来すことは全くなくなり、現在6カ月経過しているが、一度再投与行い(2回目は75単位)一度も絶食になることなく、体重も施行前から5kg増加している。
まとめ
本治療法は全くの思いつきでしかも適応外使用なので勧められるものではないが、非侵襲的で非常に有効であったのでここに報告した。