日本重症心身障害学会誌
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O-1-B04 サーモグラフィを用いた本人の意向を確認する試行的研究
桃川 里菜黒澤 淳二羽多野 わか竹本 潔
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2017 年 42 巻 2 号 p. 167

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抄録

はじめに 地域包括ケアシステムの推進において、本人主体の生活行為向上マネジメントの活用が注目されている。興味チェックリストなどを用いた意味ある作業の実現はQOLの維持と向上に重要である。しかし、多くの重症心身障害者は自身の好みや意向を正確に他人に伝えることが困難であり、介護者が本人の気持ちを推し量りながら支援している現状がある。 近年、ヒトの鼻尖の温度変化から、快不快を推定できる可能性が報告されている。今回、サーモグラフィによる測定を試み、妥当性を検討したので報告する。 対象 明らかに笑顔になる視聴覚好物(以下、好物)がある当施設入所の脳性麻痺者5名で、男性3名、女性2名、平均年齢44.2歳(±14.2)、横地分類はA1-Uが2名、A1・A2・A3が1名であった。 方法 測定機器はFLIR Systems社製赤外線カメラFLIR ONEを装着したApple社製iPadで、対象の鼻尖温度を正面約50cmから計った。測定時間は看護記録から覚醒している時間帯を選び、測定場所は測定者と好物以外の刺激がなく、外気温に左右されない部屋で行った。測定は、好物実施1分前、実施中2分間は30秒間隔、実施1分後、2分後、5分後、10分後の計10回行った。鼻尖温度の差の比較は一元配置分散分析を用いた。 結果 対象者全員に好物実施後鼻尖温度が上昇する傾向を認めたが、統計学的な差は認めなかった(p=0.34)。 考察 今回の目的は、重症心身障害児者施設入所者においても、先行研究と同様の結果が得られるか試行することにあったため、好物が明らかな5名を選抜した。結果、実施後に鼻尖温度が上昇する傾向が認められた。 今まで噂の域を出なかった本人の好物や苦手について、確認できる可能性があることがわかった。今後、すべての入所児者の好物や苦手に対して測定し、妥当性を検証しつつ、本人主体の生活支援の実現をめざし、生活行為向上マネジメントの導入に着手する計画である。 

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