日本重症心身障害学会誌
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一般演題
O-2-C26 腕頭動脈離断術により気管切開を回避した重症心身障害児の1例
井上 美智子片山 修一水内 秀次産賀 温恵赤池 洋人吉永 治美
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2017 年 42 巻 2 号 p. 227

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抄録
はじめに 重症心身障害児者(以下、重症児(者))において、側彎や胸郭変形のために気管狭窄を生じる場合が少なくない。また重症児(者)の呼吸障害の悪化は気管切開を要することが多い。今回、重症者の気管狭窄による呼吸不全に対し気管切開を回避する治療法を選択し有効であったため、報告する。 症例 症例は脳性麻痺、大島分類1の26歳の男性。新生児期に人工呼吸管理を受けたのち、17歳から高炭酸ガス血症のため、夜間のみNPPVを装着した。高度の側彎を認め、筋緊張は強く、19歳時にバクロフェン髄注療法を開始、さらに緊張亢進時には薬剤の追加を必要とした。25歳より、気道感染を反復、緊張亢進時にチアノーゼを来し救急搬送された。その後、肺炎罹患後、常時酸素投与が必要になり、緊張亢進などを契機にしばしばチアノーゼが出現した。造影CTでは気管が胸骨と腕頭動脈に圧迫されて狭窄しており、気管の構造的狭窄に機能的狭窄すなわち気管軟化症を来したことが呼吸不全の原因と考えられた。家族と治療方針を検討した所、気管切開は在宅ケアの増加と福祉資源の制限を来し、患者のQOLを大きく低下させると結論した。このため、気管切開術を回避し、胸骨部分切除と腕頭動脈離断術を施行した。術後、CT上気管の圧迫が解除され、臨床的にも日中の酸素は不要になり、夜間のみのNPPV装着により呼吸状態は安定した。 考察および結果 これまでの気管狭窄による呼吸不全に対する治療報告例は挿管をする場合が多かった。その後、気管切開の施行によっても症状の改善が乏しく、最終的に構造的気管狭窄に対する腕頭動脈離断術等を施行している症例が少なくなかった。本症例を通じて、気管切開を回避した胸骨部分切除および腕頭動脈離断術は気管狭窄による呼吸不全を改善させるとともに、患者のQOLを維持できる治療法であることが示唆された。
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© 2017 日本重症心身障害学会
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