抄録
Ⅰ.はじめに
周産期医療の進歩に伴い、これまで家庭で生活することが困難であった人工呼吸器を必要とする子どもとの家庭生活を可能にした。しかし、医療的ケアを必要とする子どもとの生活は、家族に様々な影響や変化をもたらし、その生活を継続することは容易なことではない。主に母親が子どもの世話を担うことが多く、他のきょうだいの学校行事への参加や急な病気への対応など外出や社会参加が制限される。家庭での生活を維持するためには、地域の医療・福祉の専門職種同士の連携がとても重要で、家族を含めた総合的支援が不可欠である。その中核を担うのが訪問看護であり、訪問看護師の果たす役割は大きいと考える。しかし家族のニーズに応えようとすると、診療報酬点数に嵌らない内容も多く、訪問看護ステーション(以下、訪問看護St)の持ち出しとなっている現状である。そこで私たちは、訪問看護における重症児の看護の特徴と課題を明確にする目的で、以下の二つを調査した。
Ⅱ.調査方法
1.調査期間:平成27年12月~平成28年2月
2.調査対象:平成27年度 A県内において障がい児の訪問看護をしている訪問看護Stのうち、算定外の支援を行うことがあると回答した訪問看護Stの施設管理者から同意の得られた10か所。平成28年度4県の小児を専門に訪問看護をしている訪問看護Stのうち承諾を得られた5か所。
3.調査内容:第一段階、小児の訪問看護を実施しているステ―ションの運営上の工夫、要望および小児訪問看護の特徴と問題。
第二段階、家族支援として行っている「在宅レスパイト」および「移動(外出支援)時の同行」等の診療報酬算定外のサービスの実態、小児専門訪問看護Stの役割機能。
4.データの収集方法 :インタビュー協力者の施設管理者にインタビューガイドを用いた半構成面接を行った。面接内容は許可を得て録音およびメモにより記録した。
5.分析方法:訪問看護Stごとに逐語録を作成し、診療報酬算定外のサービスを提供している内容の語りの部分を、一文脈ごとに抽出し、文脈ごとに意味内容を区切り、意味の類似化により、共通性からカテゴリーを作成した。 以下、カテゴリーは《 》、サブカテゴリーは[ ]で示す。
6.倫理的配慮:本研究は大阪医科大学研究倫理委員会の承認を得た。
Ⅲ.調査結果
1.平成27年度A県内の障がい児の訪問看護St 10か所へのヒアリングの実施
重症児の訪問看護における特徴として《障がい児の特性》《高度な知識や技術が必要》《家族支援》《多職種連携》の4つのカテゴリーと9つのサブカテゴリー、課題として《制度上の課題》《地域による体制のばらつき》《看護師不足》の3つのカテゴリーと7つのサブカテゴリーが抽出された。
訪問看護Stの多くは家族のニーズに応えるために診療報酬算定外のサービスを提供していた。その内容は、子育ての相談を含む育児支援、外出中の児の見守りなどによって生じる超過した長時間訪問であった。
2.平成28年度小児専門訪問看護St、4県5か所へのヒアリングの実施
施設管理者から語られた記述内容から小児訪問看護Stの機能と特徴は、『小児への支援』『家族への支援』『地域連携』『運営上の特徴』の4つの視点で分析した。
小児への支援の中には、ケアの複雑さ、成長発達への支援、緊急時の支援の3つのカテゴリーと、4つのサブカテゴリー、家族への支援の中には、家族不在中の看護、家族のエンパワーメントの2つのカテゴリーと4つのサブカテゴリー、地域連携の中には、機関との連携、技術・知識の向上と情報の共有、コストの3つのカテゴリーと、5つのサブカテゴリーが抽出された。
運営上の特徴の中には、複数の事業所が同一施設内にある、スタッフを固定化しないで兼務、事業所の方針、スタッフが一人前になるまでの期間、要望、ステーションの役割・特徴が抽出された。
Ⅳ.考察
重症児の訪問看護の特徴として、訪問看護師は、成長とともに変化していく個別性が強い障がい児の特性をふまえながら、成長発達していく児を見るだけでなく、家族への支援も行い生活を支えていた。児の重症度が高いほど、多くのサービスを利用しており、医師やヘルパーといった多職種との連携がとても重要であり、連携の調整は訪問看護師が家族とともに担っていた。
障がい児の訪問看護の課題として、制度上の課題、地域による体制のばらつき、看護師不足の3つの課題は、高度な医療ケアを必要としている重症児だからこそ、発生している問題であると施設管理者は捉えていた。
小児専門の訪問看護Stの特徴は、算定外のサービス提供は少ないことであった。その理由は、4か所が同事業所内で複数のサービス事業を展開しており、サービス内容を組み合わせることで、長時間訪問を可能にしていた。特に家族が障がい児とともに暮らせる力がつくように、成長とともに障がいの状態や支援内容がイメージできる見通しシートを活用して、支援していた。また同一事業所内にあることで、スタッフはいつも顔の見える関係で、情報の共有や連携がとれ、無駄のないサービスを展開できることであった。