日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム3:重症心身障がい児者と家族の生活世界を広げる支援
重症心身障がい児と家族の支援における課題解決に向けた方略の検討
−家族エンパワメントを可能にする小児訪問看護の体制づくりとエビデンスの蓄積−
泊 祐子
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2018 年 43 巻 1 号 p. 53-55

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抄録
医療依存度が高い小児は、もともと小児の機能的未熟さ、先天性疾患や希少難病が多く、標準的ケアでは対応できないこと、成長に伴いケア内容の変更の必要性があるケアのむずかしさがある。私たちは、このような重症心身障がい児(以下、重症児)を育てる家族が当たり前の生活ができることを目指して、プロジェクトに取り組んでいる。 現在の制度では対応できず、家族が実際に困っていると思われる内容をメンバーと話し、①呼吸器管理がある児の「看護師の外出支援」、②2時間以上の「長時間訪問看護」、③「重症児のレスパイト先への移動」、④「次子出産支援(陣痛時の重症児の移動や授乳時間の短時間の訪問看護等)」の4つが出た。 これらの問題を明確にするために、平成27年度に岐阜県において、1)18歳以下の障がい児のいる家族のニーズ調査、2)診療報酬の算定外になるサービスをしたことがある訪問看護ステーション(以下、訪問看護St)への聞き取り、さらに、3)平成28年度に全国5か所の小児専門訪問看護Stへの聞き取り調査を実施した。 それらの調査結果では、緊急時に児の世話を依頼できずに7割近くの家族が困った経験をしていた。その緊急時の理由は、介護者の体調不良、家族の病気、介護者の用事、きょうだいの急用や行事であった。次子出産に関しては、自由記述に「次子出産そのものをあきらめた」という意見があった。 平成28年度の訪問看護Stの聞き取り結果からは、日常的ケアを家族が行うために、状況に応じ家族が適切に対応できる指導・助言に時間がかかっていること、成長に伴う福祉や教育サービスへの不安や悩みなどにも多職種連携による複合的な対応を行い、「家族全体をエンパワメントする支援」がなされていると思われた。 運営上の課題として、成人の訪問看護時間は一般に 30~60 分程度が平均的であるが、上記の対応から小児 は 60~90 分あるいは 90 分を超過する場合も多く、実情にあった報酬となっていないことが見いだされた。 小児専門の訪問看護Stでなくても、全国どこの訪問看護Stからも家族全体への支援ができるためには、実情にあった報酬や小児に特化した事柄への報酬算定が必要であると考えられた。よく見られるモデルケースの訪問看護の算定を試みた(表1)。 もう一つに、定期受診への同席(外来受診の共同指導)が考えられる。重症児は訪問看護指示書を出す主治医が総合病院勤務であることが多く、訪問看護師が主治医と連絡が取りにくく対応に困るという問題があった。小児の状態変化についての相談や、指示内容の変更の必要性などがある場合も、家族を介してやり取りをすることが多く、タイミングよくケアの変更をすることが困難となる場合があることだった。それは、小児は成長・発達に伴って、医療的ケアに必要な器具のサイズや注入栄養剤の量などを適宜変更する必要があるが、主治医は、受診時に親から得られる情報だけでは変更の時期を十分見きわめられない状況も見られた。これらの結果から重症児だけでなく、家族も総合的に支援する対策の必要性が示唆された。 これらの課題への対策として、以下の3つの提案をする。 1.「次子出産支援」:少子化社会対策基本法を基に、国と自治体での家族支援の補助事業として施策をすること。 以下の2つは診療報酬改定に要望した。 2.「小児在宅看護連携管理料」の新設:在宅での安定した療養を図ることを目的に、訪問看護を行っている看護師が指示書を出している主治医の受診に同席し、主治医と連携強化を図り、在宅療養管理に関する情報交換や共通理解を行う。 3.現行の「訪問看護基本療養費」を小児においては1.5倍にすること:「家族をエンパワメントする支援」として、親の相談にのる時間や複雑で難易度の高いケアに十分な時間を確保すること。 この3つの提案を実現するために、セッション参加の看護師、訪問診療に関わっている医師等多職種の参加者と討論を行った。下記にまとめを記述しておく。 《質疑応答まとめ》 1.情報提供:東京都は福祉型の訪問看護として、不在看護、3時間を超えない程度、制約は多いが、NICUからの外出支援、同行受診など。東京都は先駆的に30年前から重症児の訪問看護を実施している。 2.質問:療養介護事業および医療型障がい児入所施設においても、何をしたら連携になるのか、わからないことがある。○○でも大学病院、重症児者施設でプロジェクトチームを組んで取り組み始めているところである。 重症児は長い期間、成長発達していくので、必要な支援が変化していくが、親が主治医から話を聞いてやっているだけである。受診への同席ができたらもっと良くなるのではないかと思う。訪問看護Stの看護師が施設や病院に行ってもらい、中核的な役割を担ってくれることで、重症児や家族にとってとてもよいと思った。具体的に何をしていけばよいか教えてほしい。 3.意見:医療機関、最初の医療機関の役割が非常に大きい。合同カンファレンスを経て在宅へ移行しているが、13トリソミーの説明など、悪いイメージがインプットされて、後で修正するのは難しい。地域連携するときに、地域の人たちが医療(機関の認識)も育てていかなければならない。育ててほしい。医療機関にフィードバックしてほしい。現状は高度医療と地域連携が並行して育っていない。
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