日本重症心身障害学会誌
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ランチョンセミナー4
栄養・代謝・リズムとこころとからだ
-重症心身障害児・者のカルニチン欠乏-
松井 潔
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2018 年 43 巻 2 号 p. 244

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抄録
カルニチンは長鎖脂肪酸をミトコンドリア外膜から内膜に運びβ酸化を活性化する、フリーの補酵素Aを増加させる、アシル化合物を解毒する、赤血球膜を安定化させる等の多彩な機能がある。これは両親媒性により細胞内を自由に移動できるためとされる。カルニチンはリジンとメチオニンより肝腎にある最終酵素γ-butyrobetaine dioxygenase (BBD)により合成されるが、食事からの摂取に依存するビタミン様物質である。98%は筋・心筋に存在し、カルニチン自身は代謝を受けない。飢餓のとき生体はβ酸化でエネルギーをつくる。β酸化でできるアセチルCoAからケトン体が作られ、これもエネルギーとなる。カルニチンはカルニチントランスポーターで細胞に取り込まれる。飢餓で活性化するPPAR (peroxisome proliferator activated receptor) は脂質代謝全般を制御する核内受容体である。飢餓でPPARαが活性化されるとBBDの活性化と消化管・腎のトランスポーターからの取り込みが促進される。カルニチン欠乏は細胞取り込み低下、摂取不良、合成低下、排泄増加でおきる。カルニチン欠乏の状態で飢餓や感染等のストレスがかかると症状が顕在化する。 ① 経管栄養・中心静脈栄養による二次性カルニチン欠乏:経腸栄養剤、特殊ミルク、アレルギー用ミルク等はカルニチンが含まれないものが多く単調な栄養方法でカルニチン欠乏になる。中心静脈栄養もカルニチンを添加しないと欠乏する。 ② バルプロ酸(VPA)による二次性カルニチン欠乏:重症心身障害児・者(severe motor and intellectual disabilities: SMID)でVPAを含む多剤抗てんかん剤によりカルニチン欠乏や高アンモニア血症を来すことが報告されてきた。しかし、SMIDはカルニチンを含まない栄養剤の併用も多くVPAが低カルニチン血症の主因でない可能性がある。むしろ低カルニチン血症のSMIDにVPAを投与すると高アンモニア血症を来すと考える方が理にかなう。VPA代謝産物によるN-アセチルグルタミン酸合成酵素の抑制が原因の1つとされている。 ③ ピボキシル基含有抗菌薬による二次性カルニチン欠乏:プロドラッグであるピボキシル基含有抗菌薬は小児でよく使われる。代謝物のピバリン酸がカルニチンと結合しピバロイルカルニチンとして尿中排泄されるため全身のカルニチンが欠乏し、低ケトン性低血糖やけいれん重積を来す。長期投与や筋量の少ない乳幼児、SMIDではリスクがある。タンデムマスでC5アシルカルニチンが増加する。 急性脳症、心不全、不整脈、筋痛などの症状、低ケトン性低血糖、高アンモニア血症、代謝性アシドーシス、高乳酸・ピルビン酸血症、肝機能障害などから本症を疑い酵素サイクリング法によるカルニチン測定を行う。本検査で総カルニチンと遊離カルニチンが測定でき、差分がアシルカルニチン値となる(保険適応2018年2月)。関連検査として血糖、血清ケトン体分画、アンモニア、遊離脂肪酸(ケトン代謝異常症、脂肪酸代謝異常症、カルニチン回路異常症に適応再開2018年5月)、血液ガス、尿中ケトン等を行う。タンデムマスのC0値は遊離カルニチン、C2〜C18の総和はアシルカルニチン値に相当する。レボカルニチンは公知申請で適応拡大され原因を問わずカルニチン欠乏症に使える。副作用は稀である。レボカルニチン塩化物製剤からフリー体になり、内用液(5mL・10mL分包、100mL瓶)、錠剤(100mg、250mg錠)、静注薬があるのでSMIDにも使いやすくなった。 略歴 1986 愛媛大学医学部卒業 1986 神奈川県立こども医療センター小児科ジュニアレジデント 1988 同神経内科非常勤 1990 国立精神・神経センター武蔵病院小児神経科レジデント 1992 神奈川県立こども医療センター新生児科 2005 同総合診療科  小児科専門医、小児神経専門医、新生児専門医
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© 2018 日本重症心身障害学会
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