抄録
はじめに
てんかんは小児期での発症が多い疾患という認識があるが、近年の疫学調査の集計により、てんかん発症率は65歳以上の高齢者で最も高いことが明らかになってきた。当園でも利用者の平均年齢の上昇に伴い、高齢発症のてんかんを経験した。
症例1
原疾患は出生時の低酸素性脳症の男性で、てんかんの既往はなかった。大島分類15で簡単な会話ができ、食事は自力摂取していた。72歳時、特に誘因なく20秒間の強直間代性けいれんがみられた。頭部CTや血液検査では異常を認めず、初回発作であるため経過観察していたが、2年後より1〜5分程度の意識減損発作を繰り返すようになった。脳波検査でてんかん性放電を認めなかったものの、口の自動症を伴うことが多く、てんかんと診断した。活動性や認知能への影響が少ないレベチラセタムを開始し、意識減損発作は月に一度から半年に一度となった。眠気などの副作用はみられなかった。
症例2
ダウン症の大島分類5の女性で、てんかんの既往はなかった。66歳時、朝食中に突然後方に倒れ、意識消失を伴う数分間の両上肢の間代性けいれんがみられた。頭部CT、血液検査で異常なく、脳波検査も当日はてんかん性放電を認めなかったが、3か月前に鋭波を認めており、てんかんと診断した。初回発作であり経過観察していたが、9か月後に同様のけいれんを認め、レベチラセタムを開始した。以後てんかん発作はみられず、副作用も認めていない。
考察
重症心身障害者においても健常者同様、今後、高齢化に伴い高齢発症てんかんが増えてくると思われる。高齢発症のてんかんはけいれんを伴わないことも多く、診断が困難な場合が少なくない。高齢の重症心身障害者の意識減損や一時的な認知能の低下などを認めた場合、てんかんである可能性を念頭におくことが大切である。また治療は副作用や薬物相互作用が少ない新規抗てんかん薬で開始するのがよいと考える。