日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
ユニバーサルファッションショー
おしゃれをして町に出かけよう
藤野 孝子靍田 健弥
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2019 年 44 巻 1 号 p. 163-168

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抄録
協力:学校法人文化学園 文化服装学院  Ⅰ.はじめに 重症心身障害児(者)は体つきも異なり、手足も十分に動かすことができません。既成の洋服では、自分の身体にあった、気に入ったものがなかなか見つかりませんが、みんな、「かっこいい」や「かわいい」といった言葉はうれしく、おしゃれをすることが大好きです。 今回は東京都立東部療育センターの入所者と通所者でおしゃれ大好きな方の中から、5名の方にモデルになっていただき、普段なかなかできないその方の希望する、また機能性にも優れたファッションを、学校法人文化学園 文化服装学院の学生さんと先生にご協力いただき製作しました。 Ⅱ.佐田晴香さん ディズニーの音楽を聴いたりアニメを見たりするのが大好き。かわいいっていわれることもかわいいものも大好きで女子力とっても高め。もうすぐ家族の結婚式に出席するのに、シンデレラみたいなドレスで出席したいです。 【結婚式用のドレス】 「美女と野獣」のベルが着ているドレスが好きと伺い、アニメをみてドレスのデザインをしました。ジャカードの生地を使用し、ボリュームを出すために3段スカートを製作しました。トップスはボリュームのあるスカートとのバランスをとるためにアルファベットのVのような形のプリーツで肩幅を少し出しました。 仮縫いでは、袖ぐりが大きかったので、小さく調整しました。 ○仕立て○ トップスは、伸縮性があるカットソーの素材を使用し、後ろから前まで1枚で仕立て、前中心を開けました。スカートは、車椅子上でも着脱しやすいように上の2段は巻きスカートで、一番下の段が輪になっています。後ろにはゴムを入れました。このドレスは、レースを多く使用しているので、布地に合うレースを何度も選びなおしました。 大変だったところは、スカートの分量が大きく布地の幅に入らなかったので、切り替えなければならず、先生と相談しながら位置を調整しました。また、ギャザーの分量が多く、ウエスト部分の布が3枚重なり縫製も大変でした。 スカートの裾や身頃に遠くからでも光って見えるようにブルーのラインストーンをつけ、佐田さんのイメージに合わせたドレスになり、デザインしてよかったと思いました。 製作者:デザイン専攻1組 グワナン フェリシア アンジェリカさん ら3名 Ⅲ.菊池未来さん 好きなことはおしゃれをすること。髪を結ってもらうのも大好きです。夏祭りの花火大会では浴衣を着ました。みんなにかわいいと声をかけられ、とってもうれしかったです。今日はドレスです。とっても楽しみです。 【ラプンツェル風のドレスと髪型】 ラプンツェルが好きと伺ったので、デザインはラプンツェルのドレスにしましたが、紫のドレスのイメージをピンクにしました。トップスは胸元の編み上げがポイントで、ピンクに負けない紫のリボン、袖はピンクと紫のストライプのパフスリーブにしました。スカートは2段になっていて、可愛らしいボリュームのあるデザインにしました。裾にレースが付いているのがポイントです。 また、ラプンツェルのトレードマークである髪型も真似て、お花を髪にたくさんつけたデザインにしました。 ○仕立て○ トップスはコルセットの形をしっかり出したかったので、身頃にはボンディングの素材を使用し、袖は伸縮素材を使用しました。着脱がしやすいように、左身頃の肩、袖、脇がすべて開くように仕立てました。スカートも着脱しやすいように、上の段は巻きスカート、下の段が輪になっています。後ろにはゴムを入れました。 お花の髪飾りは、リボンを使用しました。素材はオーガンジーやサテンなど動きやすい素材ばかりだったので、手縫いやミシンが難しかったです。オリジナルのお花がどうしたら可愛くできるかを考えながら作業することはとても勉強になりました。 自分がデザインしたドレスを実際に菊池さんが着用した姿を見たときはとても感動しました。 製作者:デザイン専攻1組     三角 佑美江さん ら3名 Ⅳ.岩瀬雅弘さん 散歩が大好き。最近は秋葉原のメイド喫茶にも行ってきました。来年は20歳を迎えます。かっこいい晴れ着姿をみてください。 【成人式用の羽織】 来年の成人式で着れるようなド派手な和装の袴をデザインして欲しいとの要望だったので、派手な袴と岩瀬さんが大好きな黄色の着物をさがしてリメイクしました。工夫したところは、車椅子でも着脱しやすいように羽織の後ろ中心を開けて、後ろの丈を短くしました。また、派手なキラキラした感じを希望されていたので、箔をプリントしました。 羽織のプリントは、成人式で着用するということで、お祝いごとの際に使用されるおめでたい文様「松竹梅」の周りを太陽を象徴する形の「円」で囲んだものにしました。使用した色は、オレンジや朱色、金、銀、金箔、銀箔で、華やかな色合いを心がけました。 岩瀬さんの成人式という大切な記念日に着用する衣装のデザインに関われたこと、大変うれしく思います。喜んでもらえたらうれしいです。 製作者:  デザイン専攻1組 トウ ハクカイさん  ファッションテキスタイル科1組       江村 由理子さん ら3名 Ⅴ.山田桃子さん お母さんとテレビを見る時間は大好きなひとときです。今日はお化粧をしたりして、とてもワクワクしています。普段と違った衣装でステージに立てることを楽しみにしています。 【はいからさん風の袴】 山田さんは、はいからさん風の袴をアレンジしたデザインを希望されたので、はいからさんの特徴的な矢絣の着物とえんじの袴を探してリメイクしました。 リメイク前の着物では、袴の裾が長かったのでカットし、カットした部分の布で髪のリボンを作りました。通常着物は、袴の中に着ますが、山田さんは小柄で丈が長かったので着やすい丈に調整しました。袖も、肩ではしょり少し短くしました。帯は後ろで結びますが、腰が痛いかなと思い前に縫い付けました。 袴の生地が厚いため、アイロンがかかりづらく、裾をまつり縫いした後にプリーツをきれいに折るのが大変でした。 足元にはブーツを合わせたいと思っていたところ、お母様が袴に合う素敵なブーツを探してくださいました。とてもよく似合っていて大変うれしく思います。 製作者:服装科2年4組      森本 朱理さん ら4名 Ⅵ.内藤奈々さん ファッションショーをとっても楽しみにしていました。今年の春に高校を卒業し、大人の階段を駆け上がっている途中です。洋服やかわいいものが大好きです。今回は、ふんわりとしたかわいいドレスを希望しました。 【フリルたっぷりかわいいドレス】 内藤さんからの「かわいいドレス」の要望にこたえるため、ふわっとした感じを出すためにフリルをたくさんつけたところがポイントです。足がとてもきれいだったので、強調させるためスカート丈は短くしました。仮縫い時にトップスの丈が短かったため、丈を長くし、着脱時に必要な袖のゆとりを多くしました。パステル調の色が好みとのことだったので、パール入りのシャンパングリーンを選択しました。 ○仕立て○ 着脱しやすいように伸縮性があるカットソー素材を使用し、人工呼吸器にあたらないように衿ぐりを大きく開き、袖にもゆとりを多く入れました。普段からTシャツを着られているので、開きは特に作りませんでした。スカートはウエストにゴムを入れて着脱しやすくし、座るとスカートの膨らみが潰れてしまうのでパニエをいれてボリュームを出しました。 フリルがたくさんついていたので、フリル作りのためギャザーを寄せるという単純作業が辛くもありましたが、どんどん仕上がっていく過程の中で、もっとかわいくしたいと思い、ギャザーを留めたリボンにラインストーンをつけて、華やかさを出しました。 かわいいドレスが完成したときはうれしかったです。お母様にもとても喜んでもらえてよかったです。   製作者:デザイン専攻科1組    寺下 加陽里さん ら3名             さいごに 人工呼吸器や酸素を使いながら、少し緊張しながらもステージに立ったモデルの5人の皆様。当日は、アンバサダーとして開会のご挨拶をいただいた東部療育センター入所者の吉田優輝さんと一緒に、素敵な笑顔で最後までショーを楽しんでくれました。無事にショーを終えられたのは、学校法人文化学園 文化服装学院の先生と学生の皆様のご尽力と、モデルのみなさんと保護者の皆様のご理解ご協力があったからこそだと思います。心より御礼申し上げます。 写真や氏名の掲載は、保護者および関係者の了解を得て掲載しています。 ください)
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© 2019 日本重症心身障害学会
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