日本重症心身障害学会誌
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教育セミナー3
重症心身障害児(者)のポスチュアリング(姿勢の選定)
−柔軟性への支援、三角マットを使用した側臥位姿勢の実践報告−
染谷 淳司
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2019 年 44 巻 1 号 p. 91-98

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抄録

今回学会発表させていただいた表題の内容は、第41回学会シンポジウム1にて、その時代的な背景も含めて「重症心身障害児(者)の健康と生活の為の姿勢支援の研究と実践の報告」として発表し当学会誌第41巻1号にて報告1)したが多くで重複している。よって、その重複を極力避けて今回は副題の内容を著した。 要約 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))においての姿勢環境支援は彼らの命と健康や生活に関わる必需的な課題である。「ポスチュアリング」は適切な構えと体位を選定し、適応可能で機能的である多様な姿勢の生活化であり、健康と生活支援の基盤である。今回は、その主要な要因である身体の柔軟性(変形・拘縮)への対応を確認した。そして、側臥位姿勢保持環境の一方法として三角マットを体幹の姿勢保持基盤として使用した側臥位姿勢の実践やその有効性について具体的な内容を報告した。 Ⅰ.はじめに 重症児(者)での姿勢環境支援において、変形や拘縮の理解と丁寧な対応は重要である。当院では長年にわたり、三角マットを体幹の姿勢保持基盤として使用して側臥位姿勢を支援してきたのでその経過や実践について報告する。 Ⅱ.ポスチュアリングの定義2) 姿勢(posture)の定義には、構え(attitude)と体位(position)の両者が含まれる。前者は頭部・体幹や四肢の相対的位置関係で、たとえば、座位でも長座位、椅子座位、正座などの違いを表す。後者は身体全体の重力方向に対する位置で、立位、膝立ち位、座位、側臥位、背臥位、腹臥位などを示す。この両要素の適切な選定を姿勢の選定(ポスチュアリング:posturing)、生活場面での積極的な姿勢保持環境の整備・保持機器の活用をポスチュアリング・アプローチとした2)。さらに、2001年、臥位である腹臥位、四つ這い位、体幹前傾の膝立ち位など顔面および胸腹部を下に向け支持した姿勢を「腹臥位系姿勢」と定義にした3)。 姿勢選定における総合的な姿勢パターンの関連とポスチュアリングのガイドライン4)を図1で示す。なお、ポスチュアリングの総合的な内容2,5,6)、典型的な運動障害分類と各典型例での実践報告7)、姿勢の分類4)をご参照されたい。 Ⅲ.身体の柔軟性を考える −変形や拘縮、耳や腰部の褥瘡への対応− 1.姿勢支援の大指針 構えの選定の指針は、その方にとって固有で歴史あるその姿勢を決して修正しようとすることでなく、柔軟性を求め適度な可動域(「遊び」の要素)を残した構えを検討し、全身にわたって、適切なアライメントを保障できるように対応することである。運動学的には「その方なりの無理のない適度な脊柱伸展+頭部体幹の正中位・中間位保持」と「相関した上肢・下肢の構えと保持」(以下、構えバランス)が基本となる。具体的なハンドリングを紹介する。たとえば体幹屈曲優位に対してはその屈曲適応(呼気優位)をさらに促した後に伸展運動(吸気適応)に移行しその方なりの最大伸展位を見出し、それよりも適度に屈曲を許した伸展位保持を基本とする。反対に体幹伸展優位ならその伸展運動(吸気適応)を十分に促した後にその方なりの屈曲運動(呼気適応)に移行して得られた最大屈曲位から適度な伸展要素を許した屈曲位保持への順応を基本とする。このような「適度な遊びある構えの設定を3次元的に用意する」ことで、無理のない中間位姿勢が定まる。このような意図的な手順にてその方なりの構えバランスが選定され、姿勢作りでの基本的な構えとなる。身体的負担を和らげ、受動的・活動的に自らの姿勢を担えるように支援したい。これらには、呼吸調整や重力適応が肝心でポスチュアリングがその重要な手立てである。 2.基本的な変形や拘縮は相関し合い形成される、その過程の理解と対応4) 1)重症児(者)の脊柱側彎に対する具体的なアプローチと検討 南雲は整形外科医石原昂氏と共に、1997年にそれまでの重症心身障害児(者)の調査・研究から、脊柱や骨盤帯変形と呼応する股関節の後方脱臼を主とした非対称的な両下半身変形(windblown hip deformity)について論文5)8)をまとめている。この姿勢パターンを示すケースにおいて、腰椎の回旋方向(凸側)と骨盤帯の回旋が一致する同側群と反対になる対側群が存在する。このようなケースに対して対側方向へ他動的に骨盤帯を回旋するハンドリングを行うと、同側群ではcobb角の減少とともに椎体回旋度の減少が得られるが、対側群ではcobb角の減少は得られるが椎体回旋度は増加する。則ち対側群では両下肢の正中位方向へのハンドリングが腰椎の回旋変形を増強するので、生活介助や姿勢保持には慎重を期すように述べている。これらは股関節脱臼や拘縮、3次元的な脊柱・ 胸郭変形などの対応にも関連し合ってくるので慎重に検討すべきである。 2)中枢部の基本的な変形・拘縮への対応    (1)股関節脱臼に対しての水平面の対応 頭部・体幹の正中位・中間位保持を得ることを最優先に対応する。それに呼応しつつ脱臼や拘縮、過緊張などから生じる可動域制限に無理のない程度の関節運動域とする。 (2)脊柱・肋骨隆起など高度変形への対応 脊柱の変形は胸郭変形に直結する。側弯凸側の後側面では肋骨隆起が、前面では扁平化が著明である。側弯短縮側では、下部肋骨の過剰な突出が生じる。基本方針は同様に、サポート面は身体の形状にあわせて用意する。 (3)下部肋骨と腸骨稜との間隙狭小化・接触への対応 腰椎の過前弯・回旋・側弯・ねじれを伴った重度変形では、短縮側の腸骨稜と下部肋骨が接触するか、ねじれ重なる状態となる。背臥位では間隙狭小部の骨盤帯は基底面として残し、呼応する短縮過緊張状態の腰背部筋群は緊張緩和しつつ下部肋骨は連続する胸郭と共に全体的に無理なく拳上・伸長・対側方向に回旋に誘導する。三次元的に遊びのある位置を基本位置(構え)としソフトな面的保持具を挿入することで、胸郭と腸骨稜との間隙が拡がり、腹部がリラックスする。座位での対応は同様だが、抗重力要因を考慮する。リクライニングを倒して従重力位にして姿勢を整え、適応を図る必要がある。これは座位での構え選定の基本である。この部位は側腹部皮膚損傷が合併しやすく、入浴後のワセリンにてのマッサージなど皮膚ケアを並行して日常的に行いたい。 3.膝窩角(Popliteal Angle:PoA) について 重症児(者)の姿勢支援では股関節や骨盤帯と連動する膝屈筋群の影響が大きく、幼少期より柔軟性を維持していくことが重要である。膝屈筋群の柔軟性の評価に「膝窩角」がある。今回、膝窩角の測定は安静背臥位、股関節90°屈曲位にて膝関節伸展した際の膝伸展0°からの不足分の角度とした。30°で歩容、 70°以上で端座位では骨盤運動の制約や足部の位置に影響がでる。 4.耳や腰部の褥瘡への対応から考える −「構えバランス」とともに「荷重バランス」とが整合できて「全身の姿勢バランス」が成り立つ− 全姿勢において、身体機能に有効な「構えバランス」の選定が整い、そして、重力対応としての「荷重バランス」の選定がなされることで安心でき機能的な「全身の姿勢バランス」が選定できる。今回は、耳褥瘡や腰部短縮部の側腹部皮膚損傷に関して考える。前記した体幹の三次元的変形と呼応する非対称的な下肢変形において、対側群においては、顔面側で体幹が凹側下の半背臥位姿勢が一般的な姿勢となる。この際、顔面側の側頭部や耳、肩、腰部や骨盤帯には他の部位より大きな体圧がかかりやすい。前記した総合的な「構えバランス」を用意できたとしても、ベッド内にて上半身をギャッジアップするとさらに荷重が増強され、耳や腰部短縮部の負担が増強してしまう。この対応として、全身の「構えバランス」を保ちつつ、頭部側を後方、下半身側を前方となるようにベッド内で全身を斜めに設定にすることで、全身の体圧バランスが均等化し、顔面側の側頭部や凹部側腹部での荷重を軽減することができる。このような「構えバランス」と「荷重バランス」を整合した姿勢選定により、耳褥瘡や側腹部皮膚損傷を予防し改善することができる。今後ベッド内の側臥位姿勢支援として定着させたい(図2)。これは一例であり、すべての姿勢の選定に関与する内容である。たとえば、車いす製作においても「構えバランス」とともに「荷重バランス」を合わせて検討する。 Ⅳ.三角マットを体幹の姿勢保持基盤として使用した側臥位姿勢の支援の経過と実践報告(オリジナル三角マット「アンミンサン®」を使用して) 1.夜間姿勢保持の研究から 夜間姿勢保持の研究9)では、当時の病棟で最も睡眠が不安定で呼吸や消化器系の対応が困難な準超重症者を対象に、呼吸機能に望ましく、介護しやすい姿勢保持と姿勢変換の方法を検討した。脊柱や胸郭の重度変形に対して、モールド型の側臥位姿勢保持具を製作し覚醒時の呼吸機能と骨関節系評価を行い、良い結果が得られたので、夜間姿勢保持装置を製作した。実際にベッド内で使用し適応を図ることで、深夜の呼吸機能評価で安定した呼吸が確認できた。夜間の姿勢管理の重要性が再認識され、「夜間姿勢をも担う側臥位保持装置は医療的側面を持つ重要な生活用具である」と提言できた。この結果を指針にして、重症児(者)にて体幹の三次元的変形や肩関節の重度可動域制限がある方々には個別フルオーダーでの側臥位保持装置の製作を含めた姿勢環境支援を行ってきた。 (以降はPDFを参照ください)

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