抄録
はじめに
重症心身障害児(以下、重症児)は、その障害のために応答表出が微弱である。重症児の応答表出については、心拍指標を用い定位反応や期待反応による評価がなされている。本研究では、視覚障害を伴う重症児において、視覚刺激と聴覚刺激に対する心拍反応による応答性の相違から、日常生活での受容しやすい働きかけについて明らかにすることを目的とした。
方法
対象:院内生活をしている11歳の女児2名。聴覚受容に関しては、2名とも音楽を聴いたり名前を呼ばれた時に笑顔などの応答が見られた。視覚受容に関しては、2名とも光覚程度であった。
心拍による評価方法:S1-S2パラダイムで実施。S1(先行刺激)を視覚刺激と聴覚刺激を用いた課題を各2課題設定した。視覚刺激を用いた課題として、顔を覗き込む場合(覗き込み課題)とぬいぐるみを眼前に見せる場合(ぬいぐるみ課題)の2種類を、聴覚刺激を用いた課題として、呼名する場合(呼名課題)とチャイムを鳴らす場合(チャイム課題)2種類設定した。各課題について、10試行行った。
結果
対象とした児2名とも、聴覚刺激を用いた課題、視覚刺激を用いた課題のどちらにおいても、定位反応や期待反応の生起が認められたが、聴覚刺激を用いた課題でより多く生起していた。また同一の感覚刺激の課題で比較した場合に、定位反応や期待反応が多く生起している課題はそれぞれの対象児によって異なっていた。
考察
対象児は2名とも視覚障害を伴っていたが、聴覚刺激の課題だけでなく視覚刺激を用いた課題においても、定位反応や期待反応の出現が確認された。このことから、光覚程度の視覚機能がある場合には、視覚刺激の選定や呈示の仕方を工夫することで、視覚に対する働きかけの受容が可能になり、視覚機能を含めたコミュニケーション機能の発達支援が有効であることが指摘できた。
申告すべきCOIはない。