抄録
はじめに
重症心身障害者(以下、重症者)は誤嚥を来しやすく、誤嚥性肺炎予防として口腔ケアや肺炎球菌ワクチン接種などが挙げられる。長期入所中の重症者が肺膿瘍を来した場合は重症化や耐性菌関与のリスクも高く、治療の長期化や難渋する報告もある。肺膿瘍に至った患者を経験したので報告する。
症例
当センターに長期入所中の54歳男性、大島分類1、診断は新生児感染症後遺症による脳性麻痺、てんかん、精神発達遅滞。栄養摂取は胃瘻と経口摂取を併用していた。
経過
一過性に発熱(発症日をday1とする)、day3に血液検査を施行しWBC 9480/μℓ、CRP 8.5 mg/dL、呼吸器症状・所見はなくアモキシシリン750㎎/日を開始した。day6から40℃台の発熱、day7の血液検査でWBC17360/μℓ、CRP 17.9 mg/dL、胸部レントゲン検査で左下肺野に浸潤影を認め、肺炎の診断でスルバクタム/アンピシリンの静注を開始した。Day9にWBC 15900/μℓ、CRP 37.6 mg/dL、精査目的に他院で造影CTを施行し、同部位の肺膿瘍と診断した。喀痰培養からMRSAが検出されミノサイクリンを併用した。Day47に造影CTで膿瘍の消失を確認し、抗生剤治療を終了し再発は認めなかった。
考察
肺膿瘍は細菌性化膿性炎症により肺実質が壊死・融解を来した疾患で、繰り返す誤嚥・免疫能の低下などが危険因子とされている。重症者では側彎やそれに伴う気管変形や無気肺形成が肺膿瘍を惹起し、発症部位は側彎凸側に一致していたとの報告がある。本症例でも側彎凸側に一致した部位に肺膿瘍を形成していた。反復する誤嚥の評価として、嚥下機能評価や栄養摂取の方法の検討は重要である。本症例では嚥下造影検査で誤嚥や嚥下機能の低下があることを確認し、本エピソード後に経口摂取を中止した。膿瘍治療に外科治療を要したり再発を来した症例が25%に上ったとの報告もあるが、本症例は体位ドレナージや障害歯科連携による週1回の口腔ケアによりリスクを軽減できた可能性がある。
申告すべきCOIはない。