日本重症心身障害学会誌
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シンポジウム2 入所者・在宅者のQOLをいかに保つか
遠隔面会の実施 運用ポイントと注意点
岸上 香奈
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2021 年 46 巻 1 号 p. 37-38

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抄録
Ⅰ.遠隔面会システムにまつわる背景 1.新型コロナウイルス感染症(COVID-19 と略)による面会制限状況 弊社が実施したアンケート(n=338)によると、2020年4月1日時点で、95%の医療機関が面会制限を実施しており、6月29日時点でも、「面会を禁止している」機関が43.2%、「緩和したが制限がある」を含めると85.2%と、入所者・入院患者の方は感染予防のため家族に自由に会えない状況を余儀なくされている(図1)。緊急事態宣言が解除されたとしても、ワクチン接種を含めた感染予防対策が進み、以前のように自由に面会を行えるようになるにはまだ時間がかかると考えられる。 2.高齢者/子供のスマートフォン所持率 総務省の通信利用動向調査によると、70代では27.2%、80代以上では7.8%、6歳~12歳もスマートフォンの保有率となっているが(図2)、面会制限やオンライン面会に関連して重症心身障害医療の現場では、両親や保護者などの保有率が問題になる。 3.Tele-medicineからみる遠隔面会  医療における遠隔面会に関するこれまでの報告から、Tele-medicineの目標として以下の5つが挙げられている1)2)。 1)患者経験が良くなること 2)提供されるケアの質が向上すること 3)医療従事者のよい経験になること 4)平等性があること 5)費用対効果が見合い、継続可能性があること これら5つの目標を達成することを念頭に置き、遠隔面会においても運用を検討すべきである。まず、遠隔面会を実現することにより患者体験は良くなるかについては、弊社が開発した面会君の使用経験を通して、患者が家族に会うことで、リハビリテーションなどへの取り組み意欲の向上や、COVID-19下での閉鎖的環境などに対する不満の軽減、入所者家族の安心感の醸成につながるというコメントが利用医療機関より寄せられており、達成できていると考えられる。次に提供されるケアの質が向上するかどうかについては、医療的な効果はないものの、患者に寄り添う遠隔面会の実施でケアの質向上につながっていると考えられる。医療従事者の良い経験になるか、という点については、手間がかからないとは言えず、多少の工数増加が見込まれる。ただ、遠隔面会を実施している医療機関からは「家族に会わせてあげられない、という申し訳なさが和らいだ」「ご家族が涙を流して喜んでくださり、遠隔面会を実施してよかった」というコメントが寄せられており、COVID-19流行下において医療従事者が無意識のうちに抱えているストレスを多少軽減できる可能性があると考えている。そして残る平等性・持続可能性については、背景で示した通りスマートフォンの所持率には年齢・経済状況や本人の希望などにより大きな差がある状態である。そのため、個人に任せているだけでは家族に自由に会える患者と会えない患者で格差が生じる可能性がある。そのため、遠隔面会システムを医療・介護機関が備えることは非常に重要であると考えられる。そして遠隔面会システムを継続させるには経済負担の保証が必要であり、患者側かあるいは医療機関が支払ういずれの場合においても、適切な金額設定が必要となる。 Ⅱ.運用時の注意点について このような遠隔面会システムを施設側が保持する際、最も問題になるのが「個人情報の保護について」である。この点について、非常に厳密に考えると100%のセキュリティは存在しないといえる。その前提で個人情報を保護するための運用・教育が重要となる。ただ、100%のセキュリティは存在しないと書いたが、医療施設での患者面会においては悪意の流出は基本的に起こらないと言ってよい。膨大な顧客リストや金融資産と同等のセキュリティは必要ないのである。最も気を配るべきはスタッフ・もしくは患者とその家族の悪意のない流出である。この点について、関係スタッフのある程度の絞り込みやスタッフ教育は非常に効果が高い。何が可で、何を不可とするのか、利用時間や利用までの手続き、スタッフの付き添い有無や利用できるエリアなどについて事前に施設全体での利用方針を決定し、運用スタッフに周知・教育すること、またその方針を患者側にも提示し、場合によっては誓約書や同意書のような形で保持しておくことがその後の無用のトラブルを避けることにつながる。 さらに、「ツールによる制御」も個人情報保護・トラブルの回避に非常に有用である。施設貸出しの端末にモバイルデバイス管理機能をつけ録画・録音機能などを制御し、モニタリングによって不正・紛失リスクの検知することも対策例として挙げられる。 Ⅲ.まとめ 上述したようなリスクや運用工数を鑑みたとしても、患者が家族に会えるということは非常に重要であると考えられる。完璧な運用を最初から設定するには非常にハードルが高いため、まずは対象者などを限定し、喜ばれる人を中心とした利用例の蓄積が最も効果的である。遠隔面会はCOVID-19 の流行が収まったとしても、仕事や家庭の事情などの理由から頻繁に施設へ訪問が叶わない家族、そして患者本人が負担無く家族と会える方法として普及していくことを願っている。
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