抄録
Α重症心身障害児(者)病棟における気管カニューレ事故抜管の要因を明らかにし、対策を検討するために本研究に取り組んだ。2017年4月から2020年3月のA氏の気管カニューレ事故抜管に関するインシデントレポート、および患者カルテから事故抜管の状況についてデータを収集し、人的・物理的・環境的・管理的要因の4つの視点で分類して発生時の状況を分析した。その結果、人的要因では発作時の両上肢の動きが一因として抽出されたが、発作と事故抜管の時間帯は必ずしも一致せず、発作の頻度や程度は最重要な要因ではないと考えられた。物理的要因では、気管カニューレ固定ベルトの緩みが抽出され、固定ベルトが正しく使用・管理されていなかったことが示された。また、午前10時から11時の事故抜管が多く、該当時間帯に実施している軟膏処置や体位変換等の看護業務との関連が考えられた。環境的要因では、病棟内に要観察患者がいることが抽出され、病床利用率が高い病棟では突発的な重症患者の有無が看護師の心理負担となり、観察や確認不足に繋がることが考えられた。また、事故抜管に関わった看護師の配属・経験年数により患者特性の認識不足や、新人看護師では知識や経験不足から危険を察知しにくいと考えられた。管理的要因では、気管カニューレ固定ベルトの確認不足が抽出され、物理的・環境的要因と関連が考えられた。以上の結果から、対策として、体位変換時には気管カニューレと人工呼吸器回路の接続を外す等の正しい使用・管理方法の周知、新たに配属された看護師には十分な患者情報の共有や学習機会の提供が必要であり、また繁忙な勤務状況下ではスタッフにインシデント予防の声掛けを行い予防意識を高める必要があると考えられた。