日本重症心身障害学会誌
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基調講演 指定発言
家族の立場からコロナ禍における面会の制限
坂田 和夫
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2022 年 47 巻 1 号 p. 25-28

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抄録
Ⅰ.はじめに 新型コロナウイルス感染で大変な状況の中、医療や福祉に従事されている皆様に深く感謝申し上げます。 私からは2021年8月頃の感染状況が一番厳しかった時期の面会について親の立場からご報告させていただきます。 私たち重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))のいる家族は子どもを授かり、物言わぬ子どもに問いかけ、子どもの笑顔で癒やされ、励まされ、健気に生きている姿を見ながら自らの人生をも振り返り、大切な我が子が一生豊かで幸せな人生を送ってもらいたいと願いながら面会しています。 昨年の2月から新型コロナ感染予防対策のため緊急事態宣言やまん延防止法による面会制限が幾度も繰り返され、1年9か月近くにわたり、全く面会できていない家族や数回は会えても15分~30分の短い面会しかできない状況にあります。面会制限がいつまで続くのか、先が見えない中で入所者の家族も精神的にかなり疲れが来ています。 また、入所者にとっても、新型コロナウイルス感染症によって環境が大きく変化しました。家族が面会に来てくれることで生きる力を培っています。感染前は会いたい時に会えていた日常が、今は辛く、切なく、哀しく、寂しく、胸が痛くなる思いで毎日送っています。重症児(者)本人はコロナ禍で日常の生活や家族との面会が閉ざされている状況を理解しているでしょうか。なぜ面会に来てくれないのか理解できない方も多く、親に何かあったのではないか、あるいは親に見捨てられたのではないかとストレスと不安で体調を崩したり、発作が増えたり、情緒不安定になったり、心身に様々な影響が現れているということを伺っています。 Ⅱ.くまもと江津湖療育医療センターの事例から 面会については、各病院・施設ごとに様々な制限がある中で、どのようにしたら子どもとコミュニケーションが取れるのか考えさせられます。面会の方法は大きく次の三つのタイプに分けられると思います。 1)オンライン面会、2)窓際面会、3)ベランダ越し面会 できることならば、子どもの側からどのような面会方法が良いのか聞いてみたいものです。 面会はしたいが、面会すると子どもが、外出できるのではないか、自宅に外泊できるのではないかと期待してしまうため遠慮されている家族もあります。面会制限はコロナ禍でやむを得ないことですが、親子や家族の関係が薄れてこないか心配しています。 娘・真紀(写真1)の入所しているくまもと江津湖療育医療センター(写真2)です。それぞれの施設によって面会制限中の面会形式は異なると思いますが、ここでは娘の入所しているくまもと江津湖療育医療センターの面会の様子についてご説明します。 1.オンライン面会(写真3) スマートフォンやタブレットを用いて、病棟の職員に子どもの様子を映してもらい、オンラインで面会をします。事前に予約し、自宅から接続してもらう場合と、施設の特定の部屋等で接続してもらう場合があります。 施設側にはオンライン面会を勧めていただいていますが、保護者の登録件数は全体の10~20%程度です。高齢者の親はタブレットやスマートフォンに慣れておらず、利用者は月に4~5名程度で限られた方になります。5分以内という時間制限もあります。職員の配置が必要になることから、遠慮をされる保護者もいます。耳が聞こえない子どもや目が見えない子どもも多く、理解できる重症児(者)は僅かで、ほとんどの子どもは認識できず意思疎通が難しいようです。機器を通した声よりは生の声を待ち望んでいます。 2.窓際面会(写真4) 事前予約をし、職員の方に子どもを窓際まで連れてきてもらい、ガラス越しに面会します。ガラス越しですので、声を掛けてもなかなか声が通りません。大声での声掛けはだんだん虚しくなります。直に子どもの顔を見ることができて安心しますが、子どもたちは、声が聞こえるのに、何故部屋に入って来ないのか理解していないようです。 3.ベランダ越し面会(写真5) 2~3mほどの距離はありますが、直接声をかけることができる面会方法です。子どもには面会に来ていることが分かってもらえます。ただどこから声がしているのか不思議で探しています。近くに来て声を掛けてくれないのか不満があるようです。触れることはできませんが、子どもの表情は見ることができます。 お互いがほっとする時間を過ごすには直に面会しかありません。手を握ったり、身体を摩ったり、抱きしめたり、触れあってこそ親子の愛情があります。手足が不自由に生まれた子どもには親として申し訳ない思いがあり、歩くこともない足をさすったりマッサージをしながら面会をしています。コロナが終息し面会ができるようになるまで待つしか仕方がないと思います。 Ⅲ.面会制限による重症児(者)への影響 このような面会制限によって気がかりなのは、子どもの体調の変化です。親の面会もなくなり、外出や外泊もできず、不健康な生活が続くと生命の心配があります。窓際で子どもの顔を見ても笑顔が無く、このままでは生きる力が無くなりはしないか心配です。 障がい者は言葉での不満や不安が言えず、苦しい時や辛い時は、じっと我慢するか泣くしかありません。ストレスによる食欲不振や体調不良は生命を脅かすこともあります。 守る会では、コロナによる重症児(者)の影響について昨年11~12月にかけて会員向けにアンケート調査を実施し、その結果を機関誌『両親の集い』に掲載しました。 子どもたちへの影響については主に次のような意見が寄せられています。 ◆笑顔が減った、笑顔が無くなった。◆寂しそうな表情。表情が乏しい。こわばる。◆体調不良、円形脱毛症。発作の増加。入院など。◆食欲不振による体重減少。◆体の拘縮が進んだ。◆反応が鈍くなった。声が出なくなった。◆眠っていることが多くなった。◆自傷行為が激しくなった。◆情緒不安定になった。大声で泣き出す。◆生命の危機。 (面会制限による重症児(者)への影響について『両親の集い』のアンケートより抜粋) Ⅳ.考察 オンライン面会を利用しやすくするためにはお互いにこの状況に慣れることが必要です。例えば、ベッドの脇にタブレットを固定し自宅からの操作でスイッチが入り、毎日病室の様子が確認でき、話しかけられるようになれば、お互い自宅にいるような会話ができます。朝や寝る前の挨拶をしたり日常の様子が確認できます。職員の方がいなくても操作ができ、自宅にいるように毎日顔が見えれば安心します。 またガラス窓は声が通りませんので声が通るガラスがあれば聞き取れます。ガラスに替わる素材の開発を期待します。 ベランダ越しの面会では大きめのアクリル板パーテーションを設置し、風下に家族を配置する。身近で面会できるようになれば顔を見ながら会話ができます。 外出できない状況ですので気分を発散するような行事を取り入れてもらいたい。施設の中での日中活動を通常より増やしていただきたいと思います。 障がい児者の心まで蝕んでいるコロナ禍ですが、未来を見据えてこの難局を静かに見守っていくしかないと思います。全国民がワクチン接種を終え、早く収束して、日常の生活が戻り安心して面会ができることを願っています。 令和4年1月10日現在の感染状況は、オミクロン株の感染が急激に広がり、昨年12月30日から面会ができなくなりました。第6波が始まり3か月近く面会の規制が続くと思われます。第7波が来る前に3回目のワクチン接種と効果のある経口薬の開発・普及が早期に進むことを期待しています。 略歴 2006年5月 くまもと芦北療育医療センター保護者の会会長(2010年5月退任)/2012年5月 全国重症心身障害児・者を守る会熊本県支部長/2018年5月 熊本県障害児・者親の会連合会会長/2020年5月 全国重症心身障害児・者を守る会九州・沖縄ブロック長/2020年7月 社会福祉法人全国重症心身障害児・者を守る会理事/2021年6月 社会福祉法人全国重症心身障害児・者を守る会評議員/2021年2月熊本県社会福祉功労賞受賞現在に至る。
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© 2022 日本重症心身障害学会
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