日本重症心身障害学会誌
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O-1-⑪-1 重症心身障害児(者)施設のエスノグラフィー
ー看取りの場面からー
宮地 知美郷間 英世
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2022 年 47 巻 2 号 p. 285

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抄録
はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))施設は、医療の場であると同時に生活の場である。そのため、重症児(者)・家族・多職種スタッフなどフォーマルな関係だけではなく、他入所者家族とのつながりなどインフォーマルな関係も存在する。今回、ある看取りの経過を、他入所者家族との関係を含めた民族誌的視点から報告する。 看取りの経過 A氏36歳、男性、診断名:網膜色素変性症、四肢麻痺 大島分類1 32歳で在宅から入所。母は入所してからほぼ毎日面会に来ていた。20XX年5月発熱し点滴、以降食欲低下や嘔気みられ、同年8月に胃瘻造設を検討、近隣病院を受診したところ胃がんが判明し余命2〜4週間と告げられる。家族は、当施設で今までと同じ生活(4人部屋に居て療育等にも参加)を続けたいと希望。スタッフは多職種でチームを組みながら、家族との外泊やプール活動、日々の療育等を実施した。同年10月に永眠。 他入所者家族との関り 早期に、母から他の入所者家族への情報共有があった。情報は家族ネットワークに速やかに広がった。他の入所者家族は、子どもと散歩しつつ、居室で過ごすA氏と母に声をかけ世間話をした。それは「ひとりにしない」「深く入り込まずにとどまる」関りであった。病状が進み、A氏は観察室に移動したが母は「ドアは他の人も入りやすいように開けておいて欲しい」と望んだ。最期が近づいた時も、母はドアを開けることを望んだ。他の入所者家族は部屋に入り、A氏と家族に声をかけた。A氏が永眠した翌日、他の入所者家族は、子どもと散歩しながらA氏の居室に集まり、思い出を語った。 考察 施設の生活では、重症児(者)と家族、多職種、それぞれの視点が重層的におりなされている。看取りなど施設全体の取り組みでは、フォーマルな関係としての支援にスポットが当たりがちであるが、その背後を支えるインフォーマルな関係への意識も大切である。
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© 2022 日本重症心身障害学会
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