抄録
目的
今回、重症心身障害者(以下、重症者)の母親が在宅から施設に子どもの生活を移行する際の思いについて明らかにしたいと考えた。
方法
対象は施設入所となった重症者の高齢の母親1名に、半構成面接を行い、質的記述的研究方法により分析した。倫理的配慮としてA施設の倫理審査委員会の承認を得て、母親に研究目的、方法、個人情報への配慮などについて文書と口頭で説明を行った。併せて、参加の自由性と不参加による不利益が生じないことを説明し同意を得た。
結果
分析の結果、65のコードから11サブカテゴリーが生成された。重症者の母親が在宅から施設に子どもの生活を移行する際の思いには「子どもを道づれにしないために助けてくれるところが必要」「支援を受け自分ができることは頑張ろうと思う」「親と離れて生活する準備をする中で子どもは成長してきたと思う」「自分が産んだ子だから家でずっと看たい」「大勢の中では自分の介護の仕方は叶わない」「長年自分がしてきたケアをしてほしい」の6つカテゴリーの思いが抽出された。
考察
障がいのある子どもを養育する母親は、自分が産んだ子だから家で看たいという思いと、親の高齢化や子どもの将来のことを考え、道ずれにしないために他の支援が必要だというという思いを抱いていた。また、入所に向けての準備を進めることで母親は前向きに捉え、子どもも成長していくと考えていた。重症児母子における共作業の変化について小田原(2018)は「母子の信頼関係を維持したまま子が母から離れ、社会の人々との共作業を基盤に作業に参加していように変化していた」と報告している。本事例も、ショートステイや日中支援を利用する中で子どもが他者との共作業を実施し、社会とつながることができるようにしていた。施設職員として、そのような母親の気持ちの変化に寄り添い、支援していくことが求められていると考える。