多文化関係学
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論文
日本人海外駐在員妻のパーソナル・ネットワークに関する一考察 ─上海在住の日本人海外駐在員妻の事例をもとに─
叶 尤奇
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2015 年 12 巻 p. 71-88

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抄録

本稿では、下位文化理論の視点に基づき、上海に在住する日本人海外駐在員妻が、自分自身と類似した者を選択し、同質性の高いパーソナル・ネットワークを構築しているのかについて検討するため、上海に在住する日本人海外駐在員妻21名を対象にインタビュー調査を行い分析した。調査対象をネットワークの成員構成と夫の情緒的援助の有無により、3 タイプに分類し、分析した結果は次の通りである。タイプⅠの協力者は、夫からの情緒的援助を得ながら、同じマンションの住民から構成される近隣ネットワークを維持し、そのネットワークから情緒的、直接的および情報的援助を受けている。タイプⅡの協力者は、夫からの情緒的援助を得ながら、居住環境と関係せずに、子どもの学校関係、趣味の教室および夫の会社関係を通じて複合的な友人ネットワークを築いている。同時に、タイプⅡの協力者は、日本の親族ネットワークとの繋がりを重視している。タイプⅢの協力者のパーソナル・ネットワークはタイプⅡと類似しているが、彼女たちは夫から情緒的援助をあまり得ていない。

最後に、下位文化理論の視点から、上海における日本人コミュニティが日本人海外駐在員妻のパーソナル・ネットワークの形成に与える影響について考察を試みた。考察の結果、日本人海外駐在員妻は、自身のパーソナル・ネットワークを構築する際に、上海における日本人コミュニティという下位文化の人口的規模から、制約を受けているものの、選択の余地も与えられていることが明らかとなった。

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