多文化関係学
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12 巻
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論文
  • 永井 智香子
    2015 年12 巻 p. 3-20
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    日本における華僑は二つに分けられる。1980年ごろからの中国の改革開放後、留学などの目的で日本に来た中国人は新華僑と呼ばれ、1970年代以前から日本に暮らす老華僑とは区別されている。現在、新華僑はその数においても老華僑を上回り、社会のさまざまな分野で活躍している者もいる。新華僑の中には幼い子供を伴って来日する者もいる。21世紀になり、入国時幼かった新華僑二世も日本で成人している。本稿は幼い頃親に連れられて中国から日本に来て、日本で成人した新華僑二世のアイデンティティをインタビューという質的調査法により探ろうとしたものである。新華僑の来日時期から見ても、二十代の若者に成長した新華僑二世に関する研究はこれからの研究分野であると言える。インタビューの結果、本研究のインフォーマントらは中国と日本が融合した複合的なアイデンティティを持つことがわかったが、その中身は中国語と日本語を自由にあやつり、中国と日本の二つの国の文化を見事なまでに客観視できるものであった。そして、自らのアイデンティティをポジティブにとらえ、それを強みと考え、日本社会で活かしたいと考えていることがわかった。

  • 猿橋 順子, 高 正子, 柳 蓮淑, 橋本 みゆき
    2015 年12 巻 p. 21-37
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    本稿は、在日コリアンのライフストーリーの中で、年号の参照において対照的であった二人の女性 (1世と2世) に注目し、彼女らが過去を語る上で時を示す語彙や表現にいかなる談話機能を付与しているかを分析する。分析手法は文化談話分析 (Cultural Discourse Analysis: CuDA) を用いた。結果、両者ともライフストーリーを語る上で年号への参照回数は多くないものの、国家レベルの出来事と共起関係にあった。また、その国家レベルの出来事は、各人のライフストーリーにおいて中心となる価値や意味に沿って参照されていた。年号に馴染みのある在日コリアン2世にとっては、年号への言及が語り手の個人的記憶を共有しない聞き手との接点として用いられることが抽出された。これは、反対に年号に馴染みのない人には差異の際立ちとなる可能性が指摘される。両者の語りの比較考察を通して、時間軸をはじめ時間の観念のレパートリーと、その機能の多様性が認められた。人々のライフストーリーを引き出したり、生活文化を理解・解釈する上で、この時間の観念の違いが影響することが示唆される。

  • 荻原 稚佳子
    2015 年12 巻 p. 39-55
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    本研究は、日本語母語話者(JNS)の会話の中で、特に、テンポよくやり取りされ習慣的に行われている繰り返しを含むやり取りの連鎖があるのかどうかを調査した上で、それがJNSと中国語母語話者(CNS)の間でどのように捉えられているのかを調査・分析したものである。独話における談話構成に対する志向である会話スタイルと同様に、会話のやり取りの仕方に対する志向である会話スタイルもあるという仮説をたて、JNSとCNSで比較した。JNS 18組の自由会話から「①質問―②回答―③繰り返し」の連鎖が、やり取りの習慣的・規範的なやり方である会話の連鎖として確認された。この連鎖は②回答の一部、または全部をキーワードや言いさしにより繰り返すというやり取りである。その後、繰り返しを含む会話の連鎖と含まない連鎖を比較することで、JNSとCNSにアンケート調査を行った。その結果、JNSの8割~9割が、「①質問―②回答―③繰り返し」の連鎖を楽しく盛り上がっている会話と捉え、自分も同様の話し方をし、相手にも同様の話し方を望むということが分かり、規範的に期待される会話の連鎖であり、この会話の連鎖に対する志向、つまり会話スタイルの一つとなっていることがわかった。一方、CNSは、3割以上の人が③繰り返しのない隣接ペアである「①質問―②回答」の連鎖のほうが楽しそうで盛り上がっていると捉え、自分も同様の話し方をすると認識し、相手にも同様の話し方を望んでいるとわかった。つまり、日本語母語話者とは異なる志向、つまり、やり取りに対する異なる会話スタイルを持つ人がいることがわかった。この違いは、接触場面においてコミュニケーション上の不都合を生む可能性があると言える。

  • 菊地 千秋美, 佐藤 広夢, 申 知元, 田崎 勝也
    2015 年12 巻 p. 57-70
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、日本人学生の内向き志向の心理的要因を検討することである。近年、日本人大学生には内向き志向があると言われているものの、内向き志向を構成する要因およびその原因について十分に検証されているとは言い難い。

    一方、日本と文化的に価値観を共有する韓国では留学生が年々増加している。本研究では、韓国人学生との比較に基づき、内向き志向と達成動機の関連性を検討して、日本人の「内向き志向」の特徴を明らかにする。

    内向き志向を測定する国際交流欲求因子を特定し、その尺度得点を基に独立したサンプルのt 検定を行った結果、日本人は韓国人に比べて国際交流欲求得点が有意に低く、また達成動機を測る社会的達成欲求や挑戦・成功欲求の各尺度得点も有意に低かった。さらに2要因分散分析の結果から(a)日本人大学生の国際交流欲求は達成動機によって2極化していること、(b)一般的に言われる日本人の内向き志向は達成動機の低い学生の特徴を反映していることが示唆された。以上の結果を踏まえて、達成動機が低い学生を対象とした教育プログラムの導入など、学生の内向き志向を改善するための対策について議論した。

  • 叶 尤奇
    2015 年12 巻 p. 71-88
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    本稿では、下位文化理論の視点に基づき、上海に在住する日本人海外駐在員妻が、自分自身と類似した者を選択し、同質性の高いパーソナル・ネットワークを構築しているのかについて検討するため、上海に在住する日本人海外駐在員妻21名を対象にインタビュー調査を行い分析した。調査対象をネットワークの成員構成と夫の情緒的援助の有無により、3 タイプに分類し、分析した結果は次の通りである。タイプⅠの協力者は、夫からの情緒的援助を得ながら、同じマンションの住民から構成される近隣ネットワークを維持し、そのネットワークから情緒的、直接的および情報的援助を受けている。タイプⅡの協力者は、夫からの情緒的援助を得ながら、居住環境と関係せずに、子どもの学校関係、趣味の教室および夫の会社関係を通じて複合的な友人ネットワークを築いている。同時に、タイプⅡの協力者は、日本の親族ネットワークとの繋がりを重視している。タイプⅢの協力者のパーソナル・ネットワークはタイプⅡと類似しているが、彼女たちは夫から情緒的援助をあまり得ていない。

    最後に、下位文化理論の視点から、上海における日本人コミュニティが日本人海外駐在員妻のパーソナル・ネットワークの形成に与える影響について考察を試みた。考察の結果、日本人海外駐在員妻は、自身のパーソナル・ネットワークを構築する際に、上海における日本人コミュニティという下位文化の人口的規模から、制約を受けているものの、選択の余地も与えられていることが明らかとなった。

  • 杉山 晋平
    2015 年12 巻 p. 89-103
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    本研究は、中国帰国者三世にあたる高校生たちが地元の大学生とともに取り組んだ音楽をテーマとする表現活動の事例分析を通じて、生徒たちとコミュニティとの相互的な変化のプロセスを明らかにし、言語的・文化的多様性を生きる希望を支える学びについて考察するものである。高校生たちは、曲づくりを通じて表現される自分らしさに葛藤しながらも、その背景にあるコミュニティ間の関係性をめぐる問題に目を向け始める。事例分析を通じて、曲づくりをツールとしてその関係性を変化させようと試みていくことが、自分たちの未来をつくる学びへつながっていくというプロセスを明らかにした。自らのルーツに関する知識やロールモデルとの出会いにとどまらず、自分たちが生きるコミュニティが変わりうるものであり、自らもまたその変化を担う主体であるという気づきをもたらす実践が、言語的・文化的多様性を生きる学びにおいて重要である。

研究ノート
  • 畠中 香織, 田中 共子
    2015 年12 巻 p. 105-116
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/01/23
    ジャーナル フリー

    日本の看護・介護現場では、外国人ケア労働者の参入による多文化化が進み、彼らへの適応支援は重要な課題である。こうした外国人の職業的な成長には日本人との交流が重要とされ、外国人の対人行動スキルの解明が求められる。本研究は、介護現場で働くフィリピン人とインドネシア人の126名を対象にした質問紙調査に基づき、彼らの異文化間ソーシャル・スキルを解明し、共分散構造分析を用いて異文化適応の三側面(心理的・社会文化的・自己実現的)がスキルにより促進されるとする仮説の検証を行った。その結果、スキルの下位尺度「積極的関わり」、「相手への心遣い」、「行動意図推察」が心理的適応と社会文化的適応へ、自己実現的適応では「積極的関わり」が有意な影響を及ぼし、スキルによって適応が促されることが示された。多文化化が進むケア現場での日本人と外国人の協働環境には、問題の予防や対策に有用となるソーシャル・スキル学習や文化面での支援が課題と考えられる。

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