抄録
岡山県内一都市に発生した入浴事故の原因について,消防署の全面的な協力を得て調査した.平成 17年度から 21年度の5年間に同市で発生した入浴事故のうち,救急車が出動し,消防署が対処したケースは死亡例52,回復例 165であった.これらの事例の消防署記録から,入浴事故の実態とそのリスク要因を検討した結果,以下のことが明らかになった.①入浴事故の回復例は死亡例の約3倍であった.②死亡例は回復例より 14歳高年齢であった ( p <0.05).③入浴事故は冬季の 18時から 22時の時間帯に自宅で発生することが多く,家族との同居例が 89%であった.④回復例では夏季の低値をのぞき入浴事故発生に季節性はみられなかった.⑤死亡診断名の 63.5%は心肺停止であったが,それにいたる病態は不明であった.⑥回復例では意識消失の自覚症状が最も多く,その大半が浴槽内で発生していた.ついで気分不良と意識障害が多かった.⑦回復例では診断名の 34.6%が脳血管系疾患で,高血圧症との関連が推測された.⑧洗い場では高齢者の転倒や小児の外傷が多かった.
以上のことから,わが国では入浴事故は複雑な要因が重なって日常的に少なからず発生していることが推測された.本調査では倫理上,警察対応となった事故事例は扱えなかったが,今後,それらを含めたデータ分析を行い,わが国における安全な入浴方法を探究していく必要がある.