NEUROINFECTION
Online ISSN : 2435-2225
Print ISSN : 1348-2718
シンポジウム4
HTLV-1 感染症の発症病理
松浦 英治
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キーワード: HAM, HTLV-1, 病理, 感染率, 発症年齢
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2020 年 25 巻 1 号 p. 100-

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抄録

【要旨】1985 年、鹿児島大学病院に入院していた痙性脊髄麻痺患者の髄液に ATL 様細胞を認めたことを契機に鹿児島に多い痙性脊髄麻痺の研究が始まった。翌 1986 年、Osame らは HTLV-1 関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy、以下 HAM)という新しい疾患概念を報告した。HTLV-1(Human T-lymphotropic virus type 1、以下 HTLV-1)はヒト生体内ではおもに CD4 陽性リンパ球に感染しているものの、ウイルスがどこで増殖するのか、蛋白をどこで発現しているか、また、感染していないとされる神経系細胞が障害される原因など明らかでない点も多い。HAM の病理像は、胸髄中・下部を中心とし、小血管周囲から脊髄実質にかけて浸潤するT細胞とマクロファージを主体とする慢性炎症である。炎症の終息した部分には強いグリオーシスと血管周囲の線維性肥厚がみられるのが特徴である。Umehara らの研究により罹病期間の短いケースでは多くの CD4 あるいは CD8 陽性リンパ球が等しく浸潤しているのに対し、罹病機関の長いケースでは CD8 陽性リンパ球が中心となることが報告された。血液・髄液中の CD8 陽性リンパ球に多くの細胞障害性Tリンパ球が存在する一方、中枢神経系に浸潤する CD8 陽性リンパ球のキャラクターは不明であった。近年、HTLV-1 ウイルス蛋白の一つである Tax 蛋白に特異的な細胞障害性 CD8 陽性Tリンパ球(HTLV-1 tax-specific CTL)を in-situ で検出する方法を用い、患者の中枢神経系に浸潤する CD8 陽性リンパ球のうち 10%ないし 30%が HTLV-1 tax-specific CTL であることが報告された。また、どこで発現しているか確認されていなかった HTLV-1 蛋白も中枢神経に浸潤している CD4 陽性リンパ球に強く発現していることが確認され、HAM が中枢神経内の感染リンパ球をターゲットとする炎症であることが証明された。しかし、類似した所見のある大脳ではなぜ症状を認めないのか、脊髄ではなぜ側索の脱髄が顕著なのか、なぜ輸血後・移植後感染では HAM が発症しやすいのかなど検討されねばならない点はいまだに多い。本発表ではこれら未解決の問題について整理する。

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© 2020 日本神経感染症学会
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