2022 年 27 巻 1 号 p. 15-
【要旨】ヒトのプリオン病は、原因不明の孤発性、プリオン蛋白(PrP)遺伝子変異を伴う遺伝性、医療行為や食品から感染した獲得性の3種類に分けられる。孤発性 Creutzfeldt-Jakob 病(sCJD)は、PrP 遺伝子多型と異常 PrP のタイプによって6型に分類される。典型的な病像を呈する MM1 型や MV1 型は、WHO 診断基準等を用いて診断が可能であるが、それ以外の型は非典型的病像を呈し、しばしば診断が困難である。近年、異常型プリオン蛋白高感度増幅法(RT-QuIC)によって微量の異常 PrP の検出が可能となり、新たに報告された国際的な診断基準では進行性の神経症候に脳脊髄液または他の臓器の RT-QuIC が陽性であればsCJD ほぼ確実例と診断できる。わが国に多い非典型例の MM2 型はその病理学的な特徴から皮質型と視床型に分けられる。MM2 皮質型は認知症以外の神経症候が乏しく、これまでに報告されている sCJD の診断基準では診断が困難である。われわれは頭部 MRI 所見を含む MM2 皮質型の新しい診断基準案を提案し、その診断基準案は感度 77.8%、特異度 98.5%であることを報告している。MM2 視床型については、頭部 MRI、脳波、脳脊髄液所見ともに特異的な異常所見が得られず、まだ臨床的に有用な診断基準は確立していないが、われわれは両側視床の糖代謝/脳血流低下を報告しており、今後多数例での検討が必要である。遺伝性プリオン病については、プリオン病を疑う神経症候があり、PrP 遺伝子に変異を認めれば診断が可能である。家族歴がない症例も多く、家族歴がない場合もプリオン病を疑ったときには PrP 遺伝子検査を行うことが重要である。わが国で多発している硬膜移植後 CJD(dCJD)は病理学的特徴から非プラーク型とプラーク型に分けられ、非プラーク型は sCJD 典型例と同様の特徴を有するが、プラーク型は非典型的な病型を呈する。プリオン病は異常 PrP を介して同種間や異種間を伝播すると考えられており、通常の殺菌法や消毒法が無効であるため、特に医療現場における感染予防の面からも、その早期診断は重要である。