2020 年 25 巻 2 号 p. 203-210
近年,サッカーなどのコンタクトスポーツでは,競技中に脳振盪を疑う事例が生じた場合,重大事故予防の為に競技の中断を行うことが求められている.しかし,現実には世界最高峰の大会においても脳振盪発生時に適切な対応が行われていないことが知られている.本研究では,我が国のプロサッカー競技者における頭部外傷の実態を調べる目的で,脳振盪の実態と脳振盪に関する知識を調査した.対象者は,Jリーグに所属する4チーム,97名の競技者である.脳振盪の既往は,28名のべ35回認めた.脳振盪発生回数は,1回23名,2回3名,3回2名であった.脳振盪の受傷機転は「ボールと頭」「頭と地面」「頭と頭」の順に多かった.脳振盪の発生は,高校生以上から増加している.その原因として,身長と体重増加に伴う身体的成長がサッカーにおけるインパクトの増大に関与していることが予測された.また脳振盪に関する知識は,脳振盪の既往がある者でも,不十分であることが明らかになった.脳振盪が生じた際の対応や脳振盪に関する認知を広げることが頭部外傷予防には不可欠であると考えられ,特に高校生以上の競技者や指導者に対する啓発教育や競技環境の整備が肝要である.