2020 年 25 巻 2 号 p. 287-293
外傷性脳損傷は特に重度の場合,直後から脳の低酸素状態や灌流低下が認められる場合がある.これらは外傷後の脳浮腫や脳出血などの二次性脳損傷を発現,助長させる因子となるため,受傷時の脳の灌流を評価することは重要である.古典的な検査法としてSPECTがあるが,近年ではMRIを用いた非侵襲的で,且つ緊急時にも対応可能な灌流画像であるASLが注目されている.今回,頭部外傷患者に対して施行したASLで脳の灌流異常を初回検査時に検出できた軽症と中等症の症例を経験した.これらの症例はMRI所見から,血管壁に対する機械的損傷に伴う外傷性脳血管攣縮で脳の灌流低下を呈したと考えられた.迅速な診断と適切な治療により症状の悪化を防ぐことができた.また非侵襲的なため脳の灌流を経時的に観察でき,治療効果判定に大いに役立った.MRIにASLを付加することで外傷に伴う脳梗塞や脳出血の有無,脳血管や脳血流の評価を同時に行うことができ,これまで指摘が困難であった外傷に関する病態を可視化できるようになった.急性期の現場でASLを撮像することは極めて有用である.