2022 年 39 巻 4 号 p. 723-726
症例は90歳男性.10年前にAlzheimer病と血管性認知症と診断され,薬剤治療を受けていたが,重症心不全を発症してICUに入院.心不全状態は改善したがせん妄症状と,自発性の低下,不眠,日中の傾眠,食事摂取不良をきたしたため,睡眠薬,抗認知症薬,鎮静薬などの投与に加え,認知症ケアチームが介入した.患者は認知症発症以前から音楽を趣味としていたため,好きな楽曲を中心に週3回,リハビリテーションの時に聴かせ,歌う様に促したところ,1ヶ月後には自発的にリズムをとり歌うようになった.同時にABC認知症スケールは50点から60点に改善,日中の傾眠も改善し自宅退院できた.音楽療法の効果は薬物療法と違いエビデンスは低いとされているが本例では音楽療法の開始に伴い日常生活動作の改善が明らかとなった.今後,音楽療法の科学的根拠を求めた検討が必要と思われた.