抄録
[目的]
二酸化チタン(TiO2)は現在、様々な分野で広く使用されており、安全性の高い物質として認識されている。その一方で、TiO2は細胞内の活性酸素種量を増大させることや、炎症等を引き起こすという報告もあり、絶対的に安全であるとは一概に断言できない。本研究では、DNA損傷 (主にDNA二本鎖切断)の高感度マーカーとして近年注目されているHistone H2AXのリン酸化をTiO2が誘導することを明らかにしたので報告する。
[方法]
ヒト肺胞上皮細胞A549に対してTiO2粒子(粒径:5, 5000nm)を作用し、各作用時間経過後、western blot法および免疫染色法にて、リン酸化Histone H2AXの検出を行った。また、蛍光試薬DCFH-DAを用いて、細胞内活性酸素種量の定量を行った。
[結果と考察]
A549細胞にTiO2を作用させたところ、Histone H2AXのリン酸化が30分という短時間から作用濃度依存的に観察された。また、そのリン酸化は、作用時間が8時間を越えても継続的に観察された。TiO2は光非存在下、細胞内で活性酸素種を生成するという報告がなされている。細胞内活性酸素種量の定量を行った結果、確かにTiO2作用濃度依存的な増加が確認された。過酸化水素作用が増加させる活性酸素種量と比較すると、それはごく少ないものであったにもかかわらず、過酸化水素が誘導するH2AXのリン酸化に比べ、TiO2作用によるH2AXのリン酸化は有意に高かった。さらに、TiO2作用時に、抗酸化剤N-アセチル-L(+)-システインを共存させても、H2AXのリン酸化は抑制できなかった。以上の結果より、TiO2が誘導するH2AXのリン酸化は活性酸素種由来ではないと考えられた。今後は、TiO2によるH2AXのリン酸化が本当にDNA二本鎖切断によるのか、またリン酸化に関わる因子等、そのメカニズムについて検討予定である。