2014 年 26 巻 2 号 p. 68
鳥類行動や交通流等に見られるように,群れの動きは複雑で興味深く,かつ普遍的である.群れの自己組織性は最適化計算や可視化への工学的応用も期待できる.一方,群れを構成する各個体は運動法則に従わずに動くので解析は容易でない.そのため,自走する粒子の集団として群れのダイナミクスをモデル化する「自己駆動粒子系」は活発な研究分野となっている.
その先駆的研究が1980年代後半に提案された「Boids」である.仮想的な鳥は,1)近傍の鳥群の重心を向く,2)近傍の鳥群と同じ方向を向く,3)近くの鳥や障害物を避ける,という3ルールに従って移動方向を決めながら進む.各鳥は近傍だけを見て動くのに,群れとしては秩序感のあるリアルな振舞いを見せることが示された.この成果は,コンピュータグラフィックスによる群れ再現技術への応用に留まらず,自己粒子系の分野開拓の原動力となった.その後,90年代半ばに Boids を単純化した狭義の「自己駆動粒子系」が提案された.各粒子は近傍粒子の平均方向に向きを合わせて等速で動く.粒子密度とノイズの大きさに応じて,群れが一定方向を向き秩序立って動く状態とばらばらに動く状態の間で相転移することが示された.
近年の Boids の拡張として「群れ化学」モデルがある.各粒子は Boids の各ルールの重み等のパラメータ群を独自に持つ.同一パラメータ群をもつ粒子群同士が混ざると,片方の群れの中で他方の群れが回る等の,群れ単独の動きからは予測できない振舞いが創発することが示された.一方,社会的関係性ダイナミクスのモデルへの拡張が「社会的粒子群」モデルである.社会的心理的空間を動く各粒子はゲーム理論上の戦略を状態として持ち,利得行列によって規定される粒子間力により動く向きを決定する.囚人のジレンマゲー ムの利得行列を採用した時のみ,社会的関係性の動的特性を表すと考えられる,協力戦略個体のクラスタの形成と崩壊の循環が生じることが示された.