目的:歯科インプラント埋入時には,顎顔面領域の深部に盲目的にアクセスすることが多く,顎骨とその周囲組織の基本形態に加えて,歯を喪失した際の構造変化についても詳細に把握することが重要である.本論文では,歯科インプラント治療に必要不可欠である,上下顎の解剖学的構造について解説した.
方法:試料は,東京歯科大学解剖学講座所蔵の有歯顎および無歯顎の実習用骨標本および解剖遺体を用いた.歯科インプラント治療に関係する部位の剖出を行い,外形および内部構造について分類,基礎的データを取得した.また,本講座がこれまで行ってきた研究データおよび国内外にて発表された関連データも併せて検討し,解説を行った.
結果:顎骨内に内包されている,上顎洞,下顎管などは,歯科インプラント治療に特に重要な解剖学的構造物である.これらの三次元的位置関係は,エックス線画像診査などを駆使して事前に予測する必要がある.さらに,顎骨周囲に分布する脈管や神経の走行する「エリア」を把握し,ハイリスクであることを念頭に置きながら治療を進めることが必要である.
結論:歯科インプラント治療において,「万が一」の事態を起こさないためには,有歯・無歯顎における部位的な特徴とヴァリエーションを三次元的に理解することが不可欠である.