2019 年 32 巻 3 号 p. 205-209
生体組織を構成するさまざまな分子は波長2.5~25ミクロン付近の遠赤外領域に強い吸収を示すため,その吸収スペクトル(いわゆる「指紋スペクトル」)を解析すれば,生体に光を照射するだけで,各種の無侵襲な診断が可能となる.本解説ではまず,遠赤外光を用いて血糖値を測定するための,フーリエ赤外分光器を用いたシステムを紹介する.被測定部をプリズムに触れさせて,微弱な遠赤外光を照射するだけでグルコースの検出が可能となるが,われわれのグループでは,柔軟な光ファイバーを利用することにより測定対象部位を広げ,角質がないために高感度なグルコース検出が可能な口唇粘膜の測定が行えるようになった.構築した測定システムを用いて,人を対象とした経口糖負荷試験を行った結果,指尖からの採血による参照値に対して,測定誤差20%以内という良好な結果が得られた.そして,さらに装置をより小型化,低コスト化するために,量子カスケードレーザー(QCL)を用いた血糖値測定法も新たに開発した.粘膜の乾燥状態などに影響されない適切な2つの波長の組み合わせを選択し,2台のQCLを用いた赤外分光システムを構築した.これを用いてヒト口唇の光吸収を測定したところ,2波長における吸光度の差分値と,採血による血糖値を比較したところ,両者の間に相関を確認することができた.