2019 年 32 巻 3 号 p. 217-221
MRI(Magnetic Resonance Imaging)は非侵襲で体内の臓器や血管構造を撮像できる画像診断技術として臨床で使用されており,特に血管構造を撮像する手法はMR Angiography(MRA)と呼ばれている.近年,装置の高磁場化や冷却受信コイルの改良により,高い空間分解能で画像取得できるMRAが開発されている.しかし,微細な空間領域からのMR信号は極めて低いことから,S/N比の高い高分解能の画像取得を実現化するためには撮像装置の改良だけでなく,微細血管の信号強度を増強する造影剤の開発が重要となっている.この微細血管が造影できれば,生体材料を移植した場合に起こる炎症や創傷治癒過程での微細血管網の構築を診断できると考えられる.
われわれの研究グループでは,新規な微細血管用高分子MR造影剤としてFluorescein基とGdキレートを導入した8分岐型ポリエチレングリコール(F-8-arm PEG-Gd)を開発した.この造影剤は高濃度の条件において自己組織化構造を形成し,希釈されるとその構造は崩壊する.この特性により血中に投与された造影剤の血中循環時間の一時的な延長を達成し,非造影では可視化できなかった100 μm程度の血管構造を描出することに成功している.F-8-arm PEG-Gdの分子構造と物性,MRIを用いた微細血管構造の造影結果や代謝・毒性評価について紹介し,高分子造影剤を用いた微細血管構造の可視化技術に基づく歯科領域における新たな診断法の可能性について議論する.