2019 年 32 巻 3 号 p. 222-229
目的:チタン(Ti)インプラント埋入時,インプラント─組織界面の最初の生物学的反応はタンパク質の吸着であり,タンパク質のTiへの吸着挙動の解明は重要である.本研究では水晶振動子マイクロバランス(QCM)法を用いて,カルシウム(Ca)イオンの修飾の有無がフィブロネクチンのTiへの吸着に与える影響について調べた.
方法:27 MHzのQCM装置を使用した.QCM測定用TiセンサーをCaCl2水溶液で処理し,Caイオン修飾Ti(Ca-Ti)センサーを得た.TiおよびCa-Ti表面を原子間力顕微鏡で観察し,表面粗さ,水に対する接触角およびエックス線光電分光(XPS)測定を行った.ヒト血漿由来フィブロネクチンのTiおよびCa-Tiセンサーへの吸着をQCM法にて測定した.フィブロネクチン注入60分までの振動数の減少を観測し,Sauerbreyの式を用いてフィブロネクチンの吸着量を算出した.さらに,振動数減少曲線のカーブフィッテングによって見かけの吸着速度Kobsを求めた.
結果:TiとCa-Tiとの間で表面粗さと接触角に有意差はなく,どちらも親水性であった.XPS測定の結果,Ca-Ti表面のCaの存在が確認できた.QCM測定では,Ca-TiはTiより早く,またより大きな振動数の減少を示した.Ca-TiはTiより有意にフィブロネクチンの吸着量が多く,Kobsも大きかった.
結論:CaイオンはTiへのフィブロネクチンの吸着で重要な役割を果たしていた.Caイオンによる修飾はフィブロネクチンのTiの吸着量を増加させるだけでなく,初期の吸着速度も向上させた.