日本口腔インプラント学会誌
Online ISSN : 2187-9117
Print ISSN : 0914-6695
ISSN-L : 0914-6695
症例報告
多発性骨髄腫にて骨吸収抑制薬服用中の歯周病患者の残存歯を抜歯してIODに変更し骨関連事象を回避した症例
吉谷 夏純川邊 功弥森谷 康人松沢 祐介本淨 学三冨 純一長谷川 健和田 麻友美長 太一板橋 基雅吉谷 正純北川 善政
著者情報
ジャーナル フリー

2024 年 37 巻 2 号 p. 171-180

詳細
抄録

悪性腫瘍の骨関連事象予防のため投与される骨吸収抑制薬に起因する薬剤関連顎骨壊死(以下MRONJ)発症リスクは,抜歯の意志決定を難渋させる.インプラントが埋入された歯周病患者が多発性骨髄腫にて骨吸収抑制薬を投与され,歯周病再発のため残存歯をすべて抜歯してインプラント・オーバーデンチャー(以下IOD)へ補綴変更した症例を報告する.患者は64歳男性,2010年に構音障害と歯の動揺を主訴に来院した.歯周病治療後に32,42を支台としたインプラントブリッジを装着し,2012年よりメインテナンスに移行し経過良好であった.その後,2018年に多発性骨髄腫を発症したため加療となった.2019年3月よりレナリドミドとデキサメタゾンの併用療法を開始し,同時にデノスマブ投与を開始された.10か月後,残存歯に歯周病の再発を認めた.その後の多発性骨髄腫進展,日常生活動作低下,歯周病増悪によるMRONJ発症リスクが,抜歯によるMRONJ発症リスクを上回ると判断し,すべての歯を抜歯する方針とした.処方医にデノスマブ投与をスキップするよう依頼し抜歯を行った.インプラント周囲組織には炎症所見が認められなかったため温存し,補綴装置をIODに変更した.現在再介入後3年経過しているがMRONJは発症していない.再介入前後でOral Health Impact Profile短縮版に変化はなく,CRP/Albumin Ratioは改善した.抜歯の意志決定は,抜歯後のMRONJ発症リスクと顎骨内感染残存によるMRONJ発症リスクのトレードオフ,QOL,生命予後,患者の希望などの総合的判断が重要と考えられた.温存したインプラントはQOL維持と栄養改善に有効である可能性が示唆された.

著者関連情報
© 2024 公益社団法人日本口腔インプラント学会
前の記事 次の記事
feedback
Top