日本口腔インプラント学会誌
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特集 インプラント治療を目的として開発された骨補填材を考える
  • 鮎川 保則, 草野 薫
    原稿種別: 特集 インプラント治療を目的として開発された骨補填材を考える
    2024 年 37 巻 2 号 p. 85
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー
  • 石川 邦夫
    原稿種別: 特集 インプラント治療を目的として開発された骨補填材を考える
    2024 年 37 巻 2 号 p. 86-92
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    骨の無機組成はハイドロキシ(水酸)アパタイトではなく,炭酸アパタイトである.海で生まれた生体は,捕食者からの防御のために海水成分を用いて炭酸カルシウムを組成とする外骨格を形成した.一方,生命体のエネルギー源はリン酸(アデノシン三リン酸など)である.生命体の運動性の向上や,微量のリン酸を含む海中から陸上(空中にはリン酸が存在しない)への移動に伴い,脊椎動物は骨にリン酸を貯蔵した.その結果,脊椎動物の骨格組成は炭酸カルシウムにリン酸を付与した炭酸アパタイトとなった.

    炭酸アパタイト骨補塡材は,上述した生命体の進化に学び炭酸カルシウムにリン酸塩を付与すると調製できる.100%化学合成された炭酸アパタイトは,骨と同じく破骨細胞によって吸収される.細胞間情報伝達によって骨芽細胞が活性化されるため,炭酸アパタイトは圧倒的な骨伝導性を示す.

    多施設治験で有効性が100%であることが証明された.その結果,炭酸アパタイト骨補塡材は日本で初めて適用制限がない骨補塡材として薬事承認され,日米で臨床応用されている.日本ではトップシェアを誇る.

    アパタイトは医用材料として必須である.しかしながらハイドロキシアパタイトは骨の無機組成ではない.治療効果の観点から,ハイドロキシアパタイト関連医用材料を炭酸アパタイトで再構築することが喫緊の課題である.

  • 鈴木 治, 川井 忠, 濱井 瞭
    原稿種別: 特集 インプラント治療を目的として開発された骨補填材を考える
    2024 年 37 巻 2 号 p. 93-102
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    リン酸八カルシウム(OCP)は,水溶液中からのハイドロキシアパタイト(HA)形成に先立って形成され,結晶構造上もHAと類似性があることから,骨や歯のアパタイト形成の前駆体と位置づけられる物質である.リン酸オクタカルシウムとも称されている.顆粒状材料の比較研究において,OCPはHAよりも高い骨伝導性と,β-リン酸三カルシウム(β-TCP)よりも高い生体内吸収性を示す.OCPは生理的pH下で準安定相であり,実際に生体内で徐々に加水分解して,HAを基本型とするアパタイト(カルシウム欠損ハイドロキシアパタイト;Ca-deficient HA(CDHA))に相転移する性質がある.OCPはこの結晶構造の変化を通して周囲環境と多様に相互作用して骨形成能を発現する.細胞培養の解析から,OCPは骨芽細胞の分化および破骨細胞の形成など,骨組織に関連する細胞の活性化を促すことが解明されている.間葉系幹細胞(MSC)をOCPと自家骨片共存下で培養すると,OCPと自家骨との相互作用により骨芽細胞分化がより促進される.OCPとブタ真皮由来アテロコラーゲン(Col)との複合体(OCP/Col)は,前臨床ならびに臨床試験において良好な骨再生能を示すことが確認され,歯科インプラント植立との併用が可能な骨補塡材として臨床応用に至っている.本稿では,筆者らがこれまでに報告してきたOCPの生体材料としての特性ならびにコラーゲン複合体の骨再生能を解説してみたい.

  • 吉田 靖弘, 中西 康, 赤坂 司
    原稿種別: 特集 インプラント治療を目的として開発された骨補填材を考える
    2024 年 37 巻 2 号 p. 103-111
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    生体吸収性材料で実際に臨床応用にまで進んだものはほとんどなく,いまだコラーゲン,ヒアルロン酸,ポリグリコール酸,ポリ乳酸が主流である.しかし,これらは生体組織に粘着・接着しない.生体吸収性材料に接着性を付与することができれば,人工骨と混和して患部に留置する際,操作性と封鎖性が増し,治療効果が向上する.リン酸化プルランは,骨や歯に接着するこれまでなかった生体吸収性素材であり,歯科では唯一,厚生労働省の「先駆け審査指定制度」に選定され,2024年からクラスⅣ医療機器として医師主導治験を開始する予定である.歯科以外でも実用化が進められており,胃がんなどの内視鏡切除に用いられる内視鏡用粘膜下注入材「エンライズ」は,すでに薬事認可を得ている.リン酸化プルランとβ-TCPの混和物は,非硬化型の吸収性パテ状骨補塡材として高い骨再生能を示した.従来品とは全く異なる操作性を有した,革新的な骨補塡材となりうる.リン酸化プルランがこれまでさまざまな大型研究支援を受けて開発を進めることができたのは,「日本発世界初の新素材を世界に発信する」というテーマを掲げたことが大きかったと考えている.骨だけでなく,さまざまな臓器の再生に用いるスキャフォールドやドラッグデリバリーシステムのキャリアなどへの応用も検討されており,コラーゲンやヒアルロン酸に替わる新しい生体吸収性素材として,幅広い用途展開が期待されている.

特集 インプラント治療において押さえておくべき解剖学的知識
  • 阿部 伸一, 草野 薫
    原稿種別: 特集 インプラント治療において押さえておくべき解剖学的知識
    2024 年 37 巻 2 号 p. 112
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー
  • 松尾 雅斗, 木津 康博
    原稿種別: 特集 インプラント治療において押さえておくべき解剖学的知識
    2024 年 37 巻 2 号 p. 113-120
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    インプラント手術を成功に導くためには顎骨内の解剖学的構造を考慮することで,血管や神経,筋など周囲組織の損傷を避けることが肝要である.本論文では上顎洞と上顎結節を中心に解剖学的構造を観察し,特に上顎臼歯部でのインプラント治療におけるリスクマネージメントの重要性を考察した.歯の喪失により歯槽骨は失われ上顎骨は大きく吸収し上顎洞底も下降する.解剖献体の剖出像を通じてインプラント底部が上顎洞内に穿孔する事例を示した.上顎結節部後方から上顎洞に至る顎動脈の枝である後上歯槽動脈や上顎神経の枝である後上歯槽枝の走行経路と分布は,インプラント治療に留意すべき対象であることを示した.

    解剖学的立場から,上顎臼歯部における3つのインプラント治療戦略という位置づけで垂直的骨量が少ない場合や上顎洞の存在による症例を提示した.

    1.既存骨への傾斜埋入:通常方向にインプラント埋入が困難な場合,既存骨を利用して意図的な傾斜埋入を行う方法が有効である.しかし,周囲の血管・神経の損傷に注意が必要である.

    2.顎堤造成術:歯槽骨の垂直的な高さが減少している場合には,顎骨を造成する方法が選択される.自家骨や骨補塡材を使用し,術後の軟組織の閉鎖にも注意が必要である.

    3.上顎洞底挙上術:垂直的骨量が少ない場合には,上顎洞底を挙上する手術が選択される.側方アプローチや歯槽頂アプローチを用いるが,洞内粘膜の損傷に注意が必要である.

  • 岩永 譲
    原稿種別: 特集 インプラント治療において押さえておくべき解剖学的知識
    2024 年 37 巻 2 号 p. 121-127
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    インプラントの歴史は古く,歯科用コーンビームCT(CBCT)などの画像検査がない時代から,多くの歯科医師は解剖学の知識を頼りにさまざまなインプラントの開発・実践に取り組んできた.インプラントが一般的に普及してきた現在,さまざまな下顎管解剖の研究がCBCTを利用して行われ,肉眼では見えない骨の構造などが可視化されるようになってきた.その一方で筆者は,過去に行われてきた基礎的な下顎管解剖の研究が忘れられてきている風潮を感じ始めた.また,近年新たに発表されている下顎管に関する論文を読み解くなかで,下顎管の解剖を再考する必要性を痛感するようになった.本稿では,過去に先人たちが築き上げてきた下顎管解剖をもう一度見直し,そのうえで新たな下顎管解剖の研究について言及し,改めてインプラントにおける下顎管解剖の重要性についてディスカッションしたいと思う.下顎管の走行,二分下顎管や臼後管,下顎管の構造,下顎管の内部を肉眼解剖,組織学,そしてCBCTによって改めて観察し,過去の研究と重ね合わせて検証することで,インプラント臨床にかかわる下顎管解剖がより深く理解できると考えられた.

原著(臨床研究)
  • 渥美 美穂子, 永田 紘大, 鎌田 政宜, 藤崎 みのり, 村田 彩, 河奈 裕正
    原稿種別: 原著(臨床研究)
    2024 年 37 巻 2 号 p. 128-134
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    目的:インプラント体の残存率を向上させるためには,インプラント埋入前からの徹底したプラークコントロールが重要であると考える.

    本研究の目的は,インプラント治療を希望する患者に対して,歯垢染色後,手鏡を用いた群(T群)と,口腔内スキャナーを用いた群(I群)に区別し,O'Learyのプラークコントロールレコード(PCR)を計測,減少率の比較検討を行うこととした.材料および方法:インプラント治療を希望している患者40名に対して,抜歯後1か月,2か月,3か月に歯垢染色とブラッシング指導を行った.抜歯後1か月のPCRをP1,3か月のPCRをP2と設定し,P2からP1を引いた数値を各群の減少率とした.対象部位は歯列全体と,全体を上顎右側臼歯部,上顎前歯部,上顎左側臼歯部,下顎右側臼歯部,下顎前歯部,下顎左側臼歯部の6ブロックに区別,また性別,唇頰側と舌口蓋側に区別し,PCRの減少率の比較を行った.

    結果:T群の口腔内全体の減少率は14.8±7.3%で,I群では26.5±13.5%であり,2群間に有意差を認めた.また全体のブロック別では,上顎左側臼歯部,下顎右側臼歯部,下顎前歯部,下顎左側臼歯部に有意差を認めた.性別による減少率では,両群に有意差は認めなかった.また両群の舌口蓋側に有意差を認めた.

    結論:本研究結果から,ブラッシング指導における口腔内スキャナーの有用性が示唆された.このことは良好な口腔内環境をもたらし,インプラント周囲炎の予防につながる可能性がある.

原著(基礎研究)
  • 古屋 広樹, 廣田 正嗣, 古屋 延明, 早川 徹, 大久保 力廣
    原稿種別: 原著(基礎研究)
    2024 年 37 巻 2 号 p. 135-144
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    目的:細胞接着タンパク質をジルコニア表面に固定化し,その骨形成状態を動物埋入実験によって評価した.

    方法:細胞接着タンパク質であるフィブロネクチン(Fn)をトレシルクロリド法によりイットリア安定化正方晶ジルコニア多結晶(Y-TZP)上に固定化した.Y-TZPおよびFn固定化ジルコニア(Fn/Y-TZP)の表面形状は原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察し,三次元表面算術平均粗さ(Sa)および蒸留水に対する接触角を求めた.フーリエ変換赤外分光(FT-IR)およびX線光電子分光(XPS)によりFnの固定化を確認した.ラット大腿骨欠損部埋入2週間後のY-TZPおよびFn/Y-TZPインプラント周囲の骨形成状態を観察し,皮質骨および骨髄領域での骨とインプラントとの接触率(BIC),インプラント周囲の骨形成量(BM)を測定した.

    結果:AFM画像では,Fn/Y-TZPの表面に鮮明な突起物が確認された.表面粗さと接触角はY-TZPとFn/Y-TZPの間に有意な差がみられた.FT-IRおよびXPSスペクトルによりFnの固定化が確認された.埋入2週間後で,Y-TZPおよびFn/Y-TZPインプラント周囲に新生骨の形成が観察された.骨髄領域におけるFn/Y-TZPのBICはY-TZPよりも有意に高かったが,皮質骨領域では両者の間に有意な差はなかった.BMにおいては,Y-TZPとFn/Y-TZPの間に有意差はみられなかった.

    結論:ジルコニアへのFnの固定化は,骨髄領域の骨形成の促進には効果的であったが,皮質骨領域では効果がみられなかった.

  • 植松 厚夫, 臼井 龍一, 長井 哲弥, 名取 健寿, 笹生 宗賢, 中島 奈津紀, 吉田 貴光, 伊藤 充雄
    原稿種別: 原著(基礎研究)
    2024 年 37 巻 2 号 p. 145-154
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,インプラントの接合様式および傾斜角度が及ぼす曲げ荷重とたわみ量への影響について検討することを目的に行った.

    材料および方法:セメント合着アバットメント(TP),インターナル・テーパージョイントでアバットメントがストレート型(IA)および5°のテーパー型(IB)の各インプラントをJIS4種チタン材を用い製作した.

    曲げ荷重およびたわみ量は傾斜10°,20°および30°にて万能試験機を用い,各5個について測定を行った.各測定値は一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定(危険率:5%)を用いた.測定後,CTにより観察を行った.

    結果:傾斜10°の曲げ荷重(N)は,TPが約5,060,IBは約3,850,IAが約3,030であり,各試験片間に有意差(p<0.001)が認められた.傾斜20°ではTPが約1,640,IAおよびIBは約1,420であり,TPとIAの間およびTPとIBの間に有意差(p<0.001)が認められた.傾斜30°ではTPが約910,IAが約870,IBが約840であり,TPとIAの間およびTPとIBの間に有意差(p<0.001)が認められ,IAとIBの間に有意差(p=0.008)が認められた.たわみ量(mm)については傾斜10°で0.49~0.68であり,TPとIAの間およびIAとIBの間で有意差(p<0.001)が認められた.傾斜20°では0.56~0.61であり有意差が認められず,傾斜30°では0.70~0.84であり,TPとIAの間(p=0.004)およびTPとIBの間で有意差(p<0.001)が認められた.カラー部の隙間は傾斜20°と30°で観察された.

    結論:接合様式,傾斜角度は曲げ荷重,たわみ量と隙間の形成に影響を及ぼすことが明らかとなった.

  • 大森 桂二, 加倉 加恵, 谷口 祐介, 柳 束, 松本 彩子, 城戸 寛史
    原稿種別: 原著(基礎研究)
    2024 年 37 巻 2 号 p. 155-163
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    目的:市販のインプラント体を使用して,3種類の異なるインプラント-アバットメント連結体に繰り返し荷重試験を施行し,疲労強度を評価した.

    方法:被験試料の連結機構はエクスターナルジョイント(EXT),インターナルジョイント(INT),テーパージョイント(TAPER)とした.また,コントロールとして,商用純チタン(ASTM Grade 4)製の2種類のワンピースインプラントを準備した.一つは充実型(Cont.)で,もう一つは中心軸部にφ2.24 mmの中空構造を設定したものとした(Cont.H).

    30°傾斜ブロックに装着した被験試料を,疲労試験機に設置し,繰り返し荷重を10 Hzで与え,荷重サイクルごとの荷重と被験試料の変形量を測定した.繰り返し荷重は被験試料の破損が起こるまで,または500万サイクルを達成するまで続けた.被験試料が破損した場合は,別の被験試料を使用して,約100 Nmm小さい曲げモーメントで再試験を行った.3本の被験試料が500万サイクルを達成した場合,その荷重値を最大耐久荷重とした.

    結果:繰り返し荷重試験の結果,Cont.,Cont.H,EXT,INTおよびTAPERの最大耐久荷重は,それぞれ164,55,200,237,291 Nであった.また,そのときの曲げモーメントの概算値はそれぞれ,900,300,1,100,1,300,1,600 Nmmであった.

    結論:繰り返し荷重による疲労試験の結果,EXTと比較してINTは約18%,TAPERは約45%疲労強度が強かった.この結果はすべてのインプラントシステムに当てはまるわけではないが,疲労破折の予防の観点からインプラントシステムの選択において連結機構の種類が重要な因子であることが示唆された.

症例報告
  • 鈴木 恭典, 栗原 大介, 中岡 一敏, 小久保 裕司, 大久保 力廣
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 37 巻 2 号 p. 164-170
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    高度な顎堤欠損を有する症例に対し,骨幅と骨高径を回復させる自家骨移植とインプラントによる咬合回復は有用である.今回,腺性歯原性囊胞摘出後の顎堤欠損部に海綿骨骨髄細片(PCBM)移植と患者可撤式コーヌステレスコープを適応したインプラントオーバーデンチャー(IOD)により咬合回復した症例を報告する.

    患者は25歳の男性,左側頰部の膨隆を主訴として来院した.上顎左側中切歯から第一小臼歯は動揺度1であった.上顎左側埋伏過剰歯を含む境界明瞭なエックス線透過像を認め,上顎左側中切歯から第一小臼歯に歯根吸収が認められた.

    上顎に認められた腺性歯原性囊胞を摘出し,埋伏過剰歯を抜去した9か月後,上顎左側中切歯から第一小臼歯を抜去した.二次的に顎堤欠損部をPCBMにて再建後,3本のインプラント体を埋入した.顎堤吸収が大きく,十分なリップサポートが確保できず審美回復が困難なことや機能時にカンチレバーとなり力学的にも不利になりやすく,清掃性も著しく低下することから,インプラント上部構造はIODを選択した.IODの支台装置は二次固定が可能なコーヌステレスコープを選択し,剛性の高い可撤性上部構造を装着することで,複数のインプラントを強固に連結した.IOD装着後,囊胞の再発やインプラント周囲炎は確認されなかった.また,IODの破損や維持力の低下はなく,機能的・審美的に患者の満足が得られている.

  • 吉谷 夏純, 川邊 功弥, 森谷 康人, 松沢 祐介, 本淨 学, 三冨 純一, 長谷川 健, 和田 麻友美, 長 太一, 板橋 基雅, 吉 ...
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 37 巻 2 号 p. 171-180
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    悪性腫瘍の骨関連事象予防のため投与される骨吸収抑制薬に起因する薬剤関連顎骨壊死(以下MRONJ)発症リスクは,抜歯の意志決定を難渋させる.インプラントが埋入された歯周病患者が多発性骨髄腫にて骨吸収抑制薬を投与され,歯周病再発のため残存歯をすべて抜歯してインプラント・オーバーデンチャー(以下IOD)へ補綴変更した症例を報告する.患者は64歳男性,2010年に構音障害と歯の動揺を主訴に来院した.歯周病治療後に32,42を支台としたインプラントブリッジを装着し,2012年よりメインテナンスに移行し経過良好であった.その後,2018年に多発性骨髄腫を発症したため加療となった.2019年3月よりレナリドミドとデキサメタゾンの併用療法を開始し,同時にデノスマブ投与を開始された.10か月後,残存歯に歯周病の再発を認めた.その後の多発性骨髄腫進展,日常生活動作低下,歯周病増悪によるMRONJ発症リスクが,抜歯によるMRONJ発症リスクを上回ると判断し,すべての歯を抜歯する方針とした.処方医にデノスマブ投与をスキップするよう依頼し抜歯を行った.インプラント周囲組織には炎症所見が認められなかったため温存し,補綴装置をIODに変更した.現在再介入後3年経過しているがMRONJは発症していない.再介入前後でOral Health Impact Profile短縮版に変化はなく,CRP/Albumin Ratioは改善した.抜歯の意志決定は,抜歯後のMRONJ発症リスクと顎骨内感染残存によるMRONJ発症リスクのトレードオフ,QOL,生命予後,患者の希望などの総合的判断が重要と考えられた.温存したインプラントはQOL維持と栄養改善に有効である可能性が示唆された.

  • 作山 葵, 立川 敬子, 森 良之, 野口 忠秀
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 37 巻 2 号 p. 181-185
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    インプラント治療の際の骨造成に用いる材料には,人工骨と自家骨がある.広範囲にわたる外側性の骨欠損に対する骨造成には,自家ブロック骨移植が最良とされ,そのドナーとしては腸骨を選択することが多い.その際,成人の場合は一般的に腸骨陵よりブロック骨を採取するが,術後の形態的および機能的な問題を生じることが少なくない.

    今回,我々は腸骨内板よりブロック骨を採取して,高度に吸収した上顎欠損部に骨造成を行った.8か月後,同部にインプラント埋入術を行い,さらに7か月後に二次手術を行った.その2か月後にはプロビジョナルレストレーションを装着して,インプラントに対する荷重を開始した.5年3か月経過した現在も,移植した骨は安定しており,インプラントの状態も問題なく経過している.

  • 吉武 義泰, 吉武 博美, 成松 生枝, 橋口 有真, 眞鍋 佳菜子, 佐々木 匡理, 加来 敏男, 松下 恭之, 伊東 隆利, 鮎川 保則
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 37 巻 2 号 p. 186-191
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/08/05
    ジャーナル フリー

    上顎骨と比較して下顎骨は硬く,インプラントの初期固定が得られやすいと考えられている.しかし,パノラマエックス線やCTの画像所見にて,欠損部の骨梁に顕著な透過像が認められなかったにもかかわらず,インプラント体の迷入を経験した.また,他院にて迷入したインプラント体を撤去する機会を得たため,これら2症例について報告する.

    症例1は52歳の女性,低速でインプラントを埋入中に迷入が生じた.印象用のガイドピンを使用し,形成窩から引き上げてインプラント体を撤去した.症例2は35歳の女性,晩期残存した乳歯の抜去後インプラントを即時埋入し,トルクレンチで深度調整中にインプラント体が迷入した.迷入後のCT画像データから3D模型を作製後,下歯槽神経の損傷に配慮した骨削合のデザインを検討し,骨を切り出してインプラント体を撤去した.2症例ともに後遺症は認めなかった.

    術前のパノラマエックス線写真やCTなどの画像所見からインプラント体の迷入を推測できる場合もある.しかし,予測が困難な場合は術中の埋入窩形成時の手指感覚から形成アプローチを勘案することが重要である.迷入したインプラント体の撤去には,埋入窩から取り出すcrestal approachと下顎骨の外側の骨を切離して取り出すlateral approachの2つの方法がある.これらはCT所見からインプラント体と神経の走向関係を把握したうえで適切に選択し,可能なかぎり早い時期にインプラント体の撤去を行うことが望ましいと考える.

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